藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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52:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 15:04:35.55 ID:/ZuqsV3u0
 私は気づいた。
 なかなか釣りも、悪くないものだ。
 それは、ヒーリングスポットが精神衛生上良いとか、自然に触れて贅沢な時を過ごすとか、そういった理由からではない。

「肇さん」
「何でしょう?」

 だから私は、もう一つの彼女の趣味を共有したいと思った。


「今度は陶芸を、私に教えていただけないでしょうか」


 彼女と一緒にいる時間が、得も言われず心地良いから。
 それは、無為を目的とする彼女の趣旨に反するかも知れないが――。

 空白を贅沢として肯定する考えもあるのだと、気づかせてくれた肇さんの事を、もっと知りたい。


 私の唐突な提案に対し、肇さんは目を丸くしている。
 それは無理もないことだった。

 何せ私自身、仕事以外で誰かに一方的なお願いをしたことなど、記憶に無いのだから。
 驚いているのは、私も同じだ。

 だが、それでも彼女に陶芸の弟子入りを申し出た理由は、大きく三つある。



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