藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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49:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:59:38.56 ID:/ZuqsV3u0
「…………」
完全に私のせいだ。
何ということだ。埋め合わせをするどころか、迷惑の上塗りをするなど――。
先ほど大物を釣った感動も忘れ、私達は無情な川の流れを前に、しばし呆然と二人でその先を眺めていた。
当然のことだが、もう竿がこの手に戻ってくることはない。
頭を下げても、案の定肇さんは「気にしないで」と笑って手を振るだけだった。
「私が注意を削いだせいでもありますし」
「いえ、そんな事は……」
一方で、肇さんが一匹釣ってくれたおかげで、一つの区切りができたようだ。
「ですが……私には、釣りの才能が無いということが分かりました」
やはり、従者としての生活が長かった私には、無為な時間を過ごす事に慣れるのは難しいらしい。
だが、この胸にポッカリと空いた間抜けな空虚さは、存外悪くない。
先ほど有意義な話ができたこともあり、手前勝手な充足感が胸一杯に広がるのを感じる。
「いえ」
自嘲して肩を落とす私に、肇さんが優しく声を掛ける。
「きっと食いついていたんですよ」
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