藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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34:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:32:07.21 ID:/ZuqsV3u0
* * *
自信があったわけでは無い。
まして、安いビギナーズラックを期待していたわけでも。
35:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:33:37.57 ID:/ZuqsV3u0
「……うーむ」
これでは、針の先が丸見えだ。
いくら根元まで食いつかせようと、こんなもので魚に気づかれないとは思えない。
先ほどから餌だけを器用に掠め取っては逃げる、狡猾な魚達を。
36:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:34:52.35 ID:/ZuqsV3u0
なぜ私達がこんな事をしているのか、きっかけはふとしたものだった。
たまたま一緒のレッスンを受け、その翌日のオフがお互いに重なった事を知った肇さんが、私を誘ってくれたのだ。
釣り好きを指摘した時の、目を見開いて「好きです」と答えた彼女の食いつきは凄かったが――。
37:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:39:04.55 ID:/ZuqsV3u0
駅に着くと、肇さんは想像した以上に大荷物だった。
これじゃあ、ほとんど何も用意せずにやってきた私がバカみたいだ。
申し訳ない気持ちのままに手伝いを申し出ても、肇さんは笑って手を振る。
38:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:40:49.59 ID:/ZuqsV3u0
バスに揺られ、目的の停留所からさらに歩くこと15分。
これは、お嬢さまをお連れする事はできないだろうな――。
そう思っているうちに、ようやくポイントにたどり着いたようだ。
39:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:42:29.89 ID:/ZuqsV3u0
魚がいるであろう狙い目のポイントについて講釈を受け、肇さんの見様見真似でイクラを付けた釣り針を川に放る。
竿を構えたまま、肇さんは岩の上にジッと立ち尽くしている。
しばらくは、待ち――か。
40:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:44:09.97 ID:/ZuqsV3u0
その後も何度か試してみるが、結果は同じだった。
この分だと、お嬢さまへの土産は望むべくもないか。
41:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:45:30.13 ID:/ZuqsV3u0
無為に流れる時間は、私に考える暇を与えたらしい。
肇さんが今日、私を釣りに誘った理由を。
もちろん、ただの気まぐれ、その場の思いつきだった可能性もある。
しかし、繰り返しになるが、彼女は先のユニット活動においても人一倍の気ぃ遣いだったのだ。
42:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:46:33.56 ID:/ZuqsV3u0
気づくと、私の口からそんな言葉がついて出た。
失礼だっただろうか。
ハッとして肇さんの方を向くと、彼女は変わらずに柔らかな笑みで応えてくれた。
43:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:48:38.87 ID:/ZuqsV3u0
――なるほど。ヒーリングスポット、か。
どうやら、魚を釣る以外の目的はあったようだ。
都会の喧噪から離れ、川の上流まで行けば、自然豊かな環境になるのも道理と言えるだろう。
44:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:50:50.70 ID:/ZuqsV3u0
――?
その言い方だと、違うのか?
ただ、と言い置いて、彼女は言葉を続ける。
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