藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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40:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:44:09.97 ID:/ZuqsV3u0
その後も何度か試してみるが、結果は同じだった。
この分だと、お嬢さまへの土産は望むべくもないか。
そう言えば、以前夕餉に焼き魚を出した時、お嬢さまのお気に召したものがあったな。
普段は半分を食べるのがやっとのお嬢さまが、あの時だけはペロリと喜んで平らげたのを思い出す。
そう――確か、鮎だ。
しかし、肇さんに聞いてみたところ、どうやらここにはいないらしい。
ままならないものだな。
もっとも、他の魚すら釣れない私に、鮎を釣ろうなどという色気を出せるはずもない。
だが、主に対して格好がつかないのは、従者として情けない限りだ。
一応の格好はつけたい。
そう思い、祈るような気持ちで次の仕掛けを川に投げる。
一人焦燥に駆られつつ、隣に立つ肇さんを、ふと見やる。
依然として彼女は、黙して竿を握りしめ、せわしなく流れる川面を見つめている。
彼女もチャンスを逃すまいと、竿に全神経を集中させている――。
いや――そうではない?
私とは違い、肇さんの表情はとても穏やかで、柔らかな笑みを湛えている。
まるで、そうして佇むことさえも楽しんでいるかのようだ。
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