貝木泥舟「竈門炭治郎? 誰だそいつは。知らん」
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 20:52:53.31 ID:HHo7aQtFO
唐突ではあるが、出任せを語らせて貰おう。
日頃の行いのせいか、四六時中、嘘ばかりついていると思われがちな可哀想な俺であるがごく稀に、本当のことを口にする時がある。
俺が真実を口にする状況は限られており、周りが絶対に信じないような場合のみ、嘘みたいな本当の話をまるで嘘のように語るのだ。
たとえば今この時、俺が置かれている状況などは、まさにうってつけであると言えよう。
時は大正。場所は吉原遊廓。男と女の見栄と愛憎渦巻く夜の街。そんな嘘みたいな空間に俺は存在していて、ひとり酒を呷っていた。
遊廓という界隈がどのような場所で、どんなことをするところなのか気になったならば、両親に訊いてみるといい。近いうちに兄弟が増えるかも知れない。無論、真っ赤な嘘だ。
俺を呼び出したのは忌々しい臥煙伊豆子だ。
先程顔を見せたが奴は遊廓にも関わらず遊女の格好をしておらず、そのことに憤慨して思わず酒をかけて追い出そうとした俺に向かって、臥煙伊豆子は上司気取りでこう命じた。
「富岡義勇を一晩足止めして彼の命を救え。あとは余計なことをするな。わかったね?」
はて、余計なこととは、何のことだろうか。
賃金代わりのつもりか何人か部屋によこした遊女に「五月蝿い。黙れ。話しかけるな」と吐き捨てて追い出したのは余計だったのか。
しかし、安く見られては今後に支障を来す。
こう見えても俺は専門家であり、仕事をさせようものならば報酬はそれなりに高くつく。
遊廓から出る際、窓辺に佇む臥煙の視線を背中に感じながら、俺は仕事場へと向かった。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 20:57:03.63 ID:HHo7aQtFO
「炭は要りませんか?」
寒村と呼べるほどの田舎町で炭を売る少年の姿を見かけた。みすぼらしく、健気な子供。
周囲から炭治郎と呼ばれるその子供が売る炭は飛ぶように売れていて、詐欺師とはいえ、商売人としてどのような秘訣があるのか気になった俺は、ひとつ炭を買うことに決めた。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:00:19.91 ID:HHo7aQtFO
「へえ、貝木泥舟さん。珍しい名前ですね」
「ああ」
竈門炭治郎は山奥で暮らしていて、そこに辿り着くまではかなりハードなハイキングになりそうだった。これは追加料金が必要だな。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:17:05.67 ID:HHo7aQtFO
「鬼が出るぞ」
詐欺師と少年が山道を肩を並べて歩いていると、山裾に住む初老の男に呼び止められた。
竈門少年とは顔見知りらしく、その晩は三郎と名乗るその初老の男の家に泊まるようだ。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:20:19.14 ID:HHo7aQtFO
「さて、自問自答だ」
真っ暗な山道を歩きながら自問自答をする。
「臥煙の言いなりになって仕事をこなしてやる義理が、果たして俺にはあるだろうか」
6:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:26:11.12 ID:HHo7aQtFO
「これで臥煙に文句を言われる筋合いはなくなった。ならば、後は自由にやらせて貰う」
柱と言えども生身の人間。楽な仕事だった。
人外を相手取り人外を扱う俺の敵ではない。
夕飯に下剤を仕込み腸内を洗浄してやった。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:30:32.86 ID:HHo7aQtFO
「他愛もないな鬼舞辻無惨。不死身故に学習しないお前が今回のことで学ぶべき教訓があるとすれば、自分の力に自惚れている者ほど詐欺師にとっては騙しやすいということだ」
後日談にもならない真相を、ぼそりと呟く。
縁壱がハリボテであることにも気づかずに逃げ出した無惨を追うつもりは、俺にはない。
ぼんやりとした表情でその場に佇む継国縁壱の足元に広げた和紙に火をつけ、燃やした。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:34:27.59 ID:HHo7aQtFO
「まあまあ、そう怒らないでくれ。たまたま我々の専門家業に都合の良い世界観の作品をチョイスしただけで、他意はないのだから」
そう嘯く臥煙の嘘など、俺には通用しない。
「人喰い鬼が大量発生している世界観で怪異の専門家の地位を向上させようと、そう目論んでいたことは言わなくてもわかっている」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:37:45.67 ID:HHo7aQtFO
というわけで、声繋がりの作品でした。
物語シリーズに登場する大人たちはそれぞれ違った信念を持っていて魅力的ですよね。
中でも臥煙伊豆子さんが大好きです。
臥煙先輩の遊女姿のために書きました。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 22:01:06.59 ID:HHo7aQtFO
すみません。
義勇さんの苗字が『冨岡』ではなく『富岡』になってました。
正しくは冨岡義勇です。
確認不足で申し訳ありません。
謹んで、訂正させていただきます。
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