貝木泥舟「竈門炭治郎? 誰だそいつは。知らん」
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8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/07/16(金) 21:34:27.59 ID:HHo7aQtFO
「まあまあ、そう怒らないでくれ。たまたま我々の専門家業に都合の良い世界観の作品をチョイスしただけで、他意はないのだから」
そう嘯く臥煙の嘘など、俺には通用しない。
「人喰い鬼が大量発生している世界観で怪異の専門家の地位を向上させようと、そう目論んでいたことは言わなくてもわかっている」
「わかってるなら少しは理解を示してくれ」
理解に苦しむ。臥煙は世界を放置していた。
「忍ちゃんは切り札のつもりだったんだよ」
切り札。カードを切るつもりはない隠喩だ。
「しかし、どの世界でも想定外は起こるものだ。言うことを聞かない部下だったり、大正時代にすぐ飽きてしまった吸血鬼だったり」
現代社会を経験した吸血鬼にとっては、さぞかしこの大正時代はつまらなかっただろう。
ともあれ、逆転した立場を利用して告げた。
「さて、ペナルティーの時間だ。臥煙先輩」
竈門炭治郎の父親と同じ声が、冷たく響く。
「はてさて、私に何をさせるつもりかね?」
「お前ならば聞かずともわかるだろう」
「そうだね。私はなんでも知っている」
「ならば、酒をつげ。遊女の格好でな」
「ふふっ。流石は空前の大ヒット映画に出演しただけのことはある。見違えたよ、泥舟」
遊女の格好をした臥煙伊豆子が宵闇に佇む。
そう。400億の興行収入に貢献した俺には、いくらかボーナスがあってもいいだろう。
無論、嘘だ。全てを俺が演じてはいない。
俺が作中で発声した台詞はたったひとつだ。
『何のためにお前がいるんだ、役立たず』
出汁も取っていない味噌汁を炭治郎に浴びせて吐き捨てた自問だけが俺の唯一の台詞であり、たとえ偽者とはいえ父親として息子の不幸に反逆する刃を持つに至った動機だった。
そんなあからさまな嘘で物語を締め括ろう。
【声物語】
FIN
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