白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
1- 20
8:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 22:59:41.37 ID:6NLLeJ5C0
 文香はまた笑んで、
「はい。奴隷だったモルジアナは、その叡智と巧みな舞踊、あるいは武術をもって、八面六臂の活躍を見せ、最後には資産家となった、アリババの息子と結ばれますから、その将来も明るかったことでしょう。彼女自身は、何らの魔法や、奇跡に頼るのでもありませんが、アリババに魔法のような偶然が訪れた、という好機を、己が常からの資質をもって、幸福に結び付けた、というところを一考するに、アラブのシンデレラ≠フ一人と、言えるかもしれません」

「一介の僕でありながら、随分とまあ、主人よりも上等といえるくらいに洗練されていたものです。ある意味ではその点、開けゴマ≠謔閧焜tァンタジーだ」
 ――そして、見上げたものだ。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:00:19.55 ID:6NLLeJ5C0
「物の本によれば」と、文香は目を閉じた。今度こそ千夜は居なくなってしまったようだ。「アラビア語の、日本では《奴隷》や、《召使》と訳されている言葉は——これはジャーリヤ=Aマムルーク≠ネどというのですが——単なる無給の労働力扱いや、人としての権利を軽視されるばかりのところを、意味するのでは、なかったのです。高度な教育を受けたり、家族の一員として暮らしたり、君主にまで出世する場合もあったのだとか…… むろん、主人によっては虐げられましたし、市場で売買され、財産、所有物として考えられるなど、現代先進国の感覚からすれば、決して妥当な人権意識だとは言えませんが……

 さて、女性の奴隷、ジャーリヤは、音楽や踊りの技術を備え、学芸にも通じました。千夜一夜物語で登場する、タワッドゥドという才媛は、法律、詩歌、論理、医学などの、並いる専門家に打ち勝つ程の教養を、有しています。この物語当時の感覚からいって、奴隷という言葉でこそあれ…… そう称される人々が、その主人よりも高度な教育を受けたり、豊富な知識、素養を備えていたりすることは、おかしいことでは、ありませんでした。
 モルジアナもまた…… 格別に勇気と機知を持つ、分けても優秀な女傑ではありましたが…… そういう奴隷たちの、一人だったのです」
 
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:00:52.98 ID:6NLLeJ5C0
 彼はデスクに手を付いて、
「だよな、じゃプロデューサーらしい事言うけど、千夜に演ってもらうのは――その顔やめないんだな? そっか。うんいいね、それも可愛いし。あ、やめちゃうの――千夜に演ってもらうのは、モルジアナっていう女の子だ」

「モルジアナ、…… と言われましても。主役というなら、アリババでは?」
「ああ、いいよ。僕も詳しくない」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:01:24.37 ID:6NLLeJ5C0
 しまりのない笑顔に、気の重い事だとため息が溢れた。床にボールペンが落ちているのが目に入った。
「はあ…… では、気の向いた時に」
「今すぐ頼むよ」
「は?」
「早めに聞いておかないと大変だと思う。文香だっていつまでも暇じゃないし、後になったら猫も杓子も押し寄せるぞ」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:01:57.30 ID:6NLLeJ5C0
「……お気に入りのようですね、随分」
 問うと、彼は記憶を当たるかのように呆然と眉を上げ、のち、喉を鳴らし、ストローから口を離した。
「文香? そりゃあ凄く気に入ってるよ。でも、千夜も同じくらい気に入ってるよ」
「ばか。『ラブレ』の話です。ふん、まあ、お前にも倫理はあるのでしょう」

以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:02:30.62 ID:6NLLeJ5C0
 モルジアナが、ひいてはアラビアンナイトの頃の奴隷たちがどれだけ優れていたのか一席ぶつのを終えると、文香はそこで初めて存在に気付いたように、丸い目をして千夜を見た。
「そういうわけですから、モルジアナが八面六臂の活躍を見せるのは、道理にかなうことなのですよ」

 思わず苦笑する。
「成る程。破茶滅茶な物語というだけではないのですね」
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:03:02.77 ID:6NLLeJ5C0
 いよいよ話は脱線し、千夜の知るべき領域を逸しつつあるようだ。それはちょっとした焦燥をさえ覚えさせた。
「あの」
「ん…… はい」
「たくさん教えて頂いて、ありがとうございました」
「あ…… ええと、はい。その、なんだか、話し過ぎてしまったようで……」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:03:35.58 ID:6NLLeJ5C0
「あいつが、…… プロデューサーが、貴女を大層褒めていましたよ」
「プロデューサーさんが……?」
 文香が身を乗り出した。主導権を得た。
「しかめ面も可愛いな…… だとか」
「しかめ面、……」文香は戸惑いを表し、「そのように、見えていましたか……」と悄然、頬を揉んだ。
以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:04:10.75 ID:6NLLeJ5C0
 その『御伽公演』における最初の仕事は、出演者、演出家、舞台監督、諸々、関係者一同による顔寄せだった。会議室を狭しと埋め尽くす面々は、アイドルだけで十数人、濃い赤、ピンクがかった紫、ピンクに水色のインナーと、髪を見るさえ千差万別だった。折り畳みテーブルも部屋の壁紙も白いのが、それを余計に印象付けた。

 席へ向かう途中カツン、と何か硬い物が靴先に触れ、転がるそれを視界に捉えると、ボールペンだった。その形に覚えがあるようだと感じ、周囲に目を配ると、魔法使いが例の新しいネクタイをひらめかせ、ペコペコ頭を下げて誰がしかと名刺を交換しているのが分かった。あくせく働いているようだ。千夜は素直に感心した。胸の内でなら、ちょっと拍手をしたり労ってやるのは構わなかった。実際には、言葉よりも千夜自身の働きぶりで報いることになるだろう。手を抜かない、というだけのことで、特別なことをするつもりはないが。



17:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:04:55.93 ID:6NLLeJ5C0
 声が掛かって、銘々席に着いた。拾ったペンは目につくよう机に放って置いた。

「アリババ役の安斎都です! よろしくお願いします!」
「モルジアナ役の白雪千夜です。よろしくお願いします」
「おかしら役の一ノ瀬志希でーす。にゃはは、よろしく〜」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:05:51.68 ID:6NLLeJ5C0
「一応当て書のようにはなっていますから、皆さんの個性でもって演じられそうならやってみてもいいし、ただ読んでもらうだけでも勿論構いません」
「あてがき?」声が上がった。「お手紙なんですか?」
「それは『宛名書き』ですよ、都ちゃん」答があった。「ふふ……、当て書というのは、演じる人をまず決めてから、役柄の方を俳優に寄せて脚本を書くことです」
「ほう! 面白いです!」
「おっ、やっぱり詳しいねぇ。古澤さんを呼んで良かったよ。じゃあ、ライラさんの語りからやってみましょうか」
以下略 AAS



234Res/183.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice