13:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:02:30.62 ID:6NLLeJ5C0
モルジアナが、ひいてはアラビアンナイトの頃の奴隷たちがどれだけ優れていたのか一席ぶつのを終えると、文香はそこで初めて存在に気付いたように、丸い目をして千夜を見た。
「そういうわけですから、モルジアナが八面六臂の活躍を見せるのは、道理にかなうことなのですよ」
思わず苦笑する。
「成る程。破茶滅茶な物語というだけではないのですね」
「破茶滅茶…… やはり、そうですよね」
文香は頬に人差し指を当て、考え込むように言う。
「分かります。千夜一夜物語の一群自体、ナンセンスというか…… 他からすれば、あまり納得のいかないような筋立てになるものが、多く見られます。有名な『アラジン』も一例ですが、主人公は単なる怠け者で、果報を受けるような徳を積んでいるふうでもないのが、偶然から最後には幸福になる、といったパターンも複数あります。もっとも、『アラジン』は例として相応しくないかもしれませんが……
そういう、因果応報、あるいは、伏線と回収、といった条理の構造については、千夜一夜物語の初期のものには、特別なテーマが共通しているそうです。……研究者シュライビーの曰く、《ささいなきっかけ、大きすぎる災厄》。『商人とジン』——ある商人が、ナツメヤシの種を投げ捨てたことで、ジンの息子を死なせてしまい、その事で命を狙われる。食事自体はつつましく、またイスラム教徒としても敬虔な彼でしたが…… 悪意や、避けられた過失のないところからでも、トラブルに巻き込まれるのです。昔話、という言葉で我々に連想されるような、西洋的な価値観に馴染む、分かりやすい教訓話にならないのが、千夜一夜物語の、面白いところですね……
それから、……」
――《それから》、じゃない!
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