白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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162:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:02:28.99 ID:tRJaplXx0
「え、こないだのお礼? なんだー、気にしなくてよかったのに。ううん、ちょーだい。あ、これかー。杏、飴は手使わないで舐めたいのに、これったら棒が危なっかしいじゃない。ううん、ちょーだい。ありがと。杏さ、こないだこれ買ったの。ゲーセンのね、二百円入れたら四本出るやつ。いやルーレットで四本から七本出るって書いてはあるけど、結果出るのは四本なやつね。あれさ、筺にお金入れたら、一本ずつ取り出し口に落ちてくるのね。コトンって。一本目ね、バナナシェイク味。まー好きじゃないけど、あえて選べないやつで買ってるから。これも縁じゃない、バナナいいじゃない、って思って。で、次何出るかな、って。わくわくするよね。したっけ、コトンつって。バナナシェイク。ま、ま、ま、って感じ。こういう場合もあるよねって。いいじゃん食べよーよって。で、その次何出たと思う? 三本目。コーラとかあるじゃん。イチゴとか、いっぱい種類さ。コトン! バナナシェイク! 筺見るじゃん。これバナナシェイクの筺? 違うじゃん。《バナナシェイクしか出ません》って書いてある? いやない。ガラス越しに色んな味見えるじゃん。もう嫌じゃん。四本目に望みかけるじゃん。望みっていうか、もう王子様だよね。バナナに囲まれた杏を救ってくれーって。うん。コトンって出るじゃん、王子様。何だろ? バナナシェイク! わーお! バナナ王子バニラアイスまみれ! もうさ、せめて一本違うの出てくれたら、杏それが腐った卵味でもバンザイしたよー。…… いや、せん‼︎
 ……なので、イチゴくれて、ありがと。うまー」


163:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:03:37.63 ID:tRJaplXx0
 滔々たる杏の語りを聞きながら、千夜はバナナシェイク味を用意しておくべきだったと悔いた。どんな顔をしただろう。眉をひそめ、飴を睨み、歯を剥き出して、一旦しまって、それからほっぺたを膨らませて、ああ、ほっぺたを膨らませて……。

「あら、泡が立ってきたみたい……」

「ん」
以下略 AAS



164:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:04:27.61 ID:tRJaplXx0
 頃合いを見、頷いて合図を出す。三人が目を合わせ、一斉に啜った。

「うん、美味しい……」
 頼子は目を閉じ、神経を集中させた風に言った。
「いいカンジ」と杏。
以下略 AAS



165:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:05:04.09 ID:tRJaplXx0
「武装錬金だ」杏が声を上げた。
「さあ、それは寡聞にして存じ上げませんが……
 ナポレオン体制の外務大臣などで活躍した、シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが、よいコーヒーについて語ったとされる言葉です」

「悪魔なのに天使ね。矛盾というか、文学的だな」
以下略 AAS



166:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:05:32.33 ID:tRJaplXx0
「悪魔で、地獄ね……」
 千夜は零して、カップを覗き込んだ。黒いのは、確かだ。表面の凹凸は泡や粉で出来ている、トルコ式ならではの見た目。しかし、これがもし十八世紀頃のエスプレッソだとして、タレーランには地獄の窯に見えたのだろうか? フランスの激動を生きた者ならではだろうか、感じ方というのは人それぞれであるものだ。

「これが悪魔だなんて。のんびり出来るのにな?」
「ほんとほんと。のんびり出来るのにね」
以下略 AAS



167:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:06:01.43 ID:tRJaplXx0
 カップを傾けると――ちょっと傾け過ぎた――ざらざらした舌触りと共に、飲める分は終わりになった。底に残った粉の模様で占いを、というわけにはいかない。ちとせのように上手く未来を見ることも、見えたものを説明することも千夜には出来ない。

「きっといいものになるな。楽しみだよ」
 代わりに見通したような言葉。

以下略 AAS



168:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:07:43.61 ID:tRJaplXx0
 彼の静止に、立ち上がったまま顔を向ける。
「千夜にちょっと羽織る衣装を試してもらいたいんだ。あんま時間は取らないけど」
「そうですか。ではもう少しゆっくりしていますね」
「いえ、待つには及びません。頼子さんは先に行っていて下さい」
「そう? それでは、美味しいコーヒータイムをご馳走様でした」
以下略 AAS



169:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:08:12.45 ID:tRJaplXx0
「ちょっとギラギラし過ぎやしませんか。アラビアンとはこういうものなのか」
「はは、キラキラだろ。アイドルだからいいんじゃないの」

 着せようとする彼の手から奪い取り、ブラウスの上に袖を通す。変に引っ掛けて痛めないよう気を遣った。真紅を彩る金の模様に、千夜はなにか気圧される思いがして、これがどうと呼ばれる形なのかは知らなかったが、何にせよ台無しにしてはと神経を擦り減らす。やっとの思いで、それぞれの袖四秒程ずつの戦いを終える。

以下略 AAS



170:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:08:41.68 ID:tRJaplXx0
 ふざけて返され、千夜は睨んだ。強い言葉で攻撃を仕掛けようと思い、しかし取り止めた。
 というのも、
「なにそっぽ向いている。失礼でしょう」
「はいはい」

以下略 AAS



171:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:10:00.11 ID:tRJaplXx0
「うん、やっぱり似合うよ。千夜に紅、いいな」
 企画書のファイルが突っ込まれた棚を見遣りながら、紅と聞いて、似合う筈がない、と思う。身を焦がすもの、悪夢の色。焦がれるもの、慕う瞳。『Unlock Starbeat』でだって、着こなせていた自信はない。似合う筈がない。少なくとも、まだ。
 これが本当に似合うようになったら。ショールへ目を落とす。それもひとつの望みなのか。



172:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:10:27.90 ID:tRJaplXx0
「いや、蒼も捨てがたいんだが。白と蒼、いいよな」
 彼が言添えたので、思考が遮られ、白紙に戻る。呆れて、
「まったく…… 紅とか蒼とか、食傷なのですが」

 千夜は吐き捨てた。彼は目を丸くした。
以下略 AAS



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