133:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:40:23.86 ID:tRJaplXx0
「しかも鏡見るだけじゃ駄目なんだ。俯瞰しないとな」
「何が言いたいのです」
「関係性の話だよ。千夜は今、自分の話をしただろ。だけどその白黒の世界には、確かにちとせがいる筈だ。白黒で充分だったのは、お互いを宝石のように守って来たのは、ちとせにも同じ事だったろう」
彼は言って、文香のガラスタンブラーに指を触れた。
134:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:40:51.74 ID:tRJaplXx0
話を聞いていたのかどうか、あまり分からない感想を述べて彼は、
「アイスコーヒーどう? 紙パックだけど」と言い添えた。
かぶりを振った千夜に背を向け、給湯室へ向かう。
「戻るにせよ、そうでないにせよ、僕が頭を下げにいくよ。まあ、あの先生には要らない気遣いだろうけど」
「しかし……」
135:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:41:46.07 ID:tRJaplXx0
戻って来た彼は紙パック――アイスコーヒーと、果汁100%オレンジジュース――を手にしながら、黒と蒼、二つのカップに首を傾げた。
「断熱ねぇ。じゃこっちか? でも、ガラスの方が映えるよなぁ」
千夜は呆れて、
「はあ、まったく幸せですね。そんな事で悩めたものだ」
136:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:42:20.79 ID:tRJaplXx0
――――
――増えたな――
それを聞いた刹那、千夜は時間が止まったのを感じた。
137:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:43:21.34 ID:tRJaplXx0
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
138:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:43:48.78 ID:tRJaplXx0
舞台に参加しない、稽古の場に居合わせてもいなかった杏が、訳知り顔である事に問いを質した。
杏はしまったという顔をしそうになって、やめた。白く丸い頬を緩ませる。
「『ベイカーストリート・イレギュラーズ』だよ。杏には八千人の部下がいる」
「はあ」
「しかも世界のうち七億人が杏の端末なんだよね。だから分かっちゃった」
139:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:44:16.32 ID:tRJaplXx0
「やだなー、DJだよ。リーダーなんてやってらんないし…… ま、なぜか相談を受けちゃったのは確かだよ」スマートフォンを振る。連絡アプリでのやり取りが表示されていた。「人働かせなもんだよね…… ねえ千夜、みんなに心配掛けたね」
事もなげな調子の声に、胸がぞくっとして、言葉を返せなかった。杏は取り合わず続ける。
「だから杏、《何もするな、気にするのもするな》って言っといたげたよ」
「それは、お世話様でしたね」
140:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:44:52.35 ID:tRJaplXx0
袖を引かれ、宙に浮いた右足が元へ戻った。視線をやると、杏が千夜のポケットをぱしぱし叩いた。
「はい?」
「スマホスマホ」
言われて取り出すと、軽く操作しても反応がない。電源が落ちていた。そのようにした覚えもなく驚いて、すぐに再起動を試みる。滞りもなく画面は光った。バッテリーの異常ではないようだ。
141:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:46:24.33 ID:tRJaplXx0
睨んでやった妖精は、しかしまったく態度を崩さなかった。
「《何もするな》は千夜には言ってないよ」
のんびりと言うか何なのか、鷹揚と言ってやってもいい、というのが千夜の意見だったが、とにかくマイペースに鎮座する杏の、その髪が揺れて甘い香りが鼻をうつ。
「確かに、私が言われたのではありませんでしたよ」
142:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:46:51.82 ID:tRJaplXx0
「いやあ、やっぱり一ノ瀬さんはいいなぁ。あんなに大勢の盗賊≠、カリスマというか、雰囲気でまとめあげてるんだよ。みんな自由なのに、どこか見えないロープで電車ごっこしてるみたいだ」
「ふふ、本当にすごい…… これなら志希さん、先生の舞台にもお声が掛かるかしら?」
「いやいや、手に余っちゃうよ。呼べたらそりゃ、いいんだけどね。でも今こうしてくれてるのも、魔法みたいなものでしょ」
「うーん、そうかも……」
「呼ぶならそうだね、古澤さんに…… ほら、」と振り返って千夜を指し、「白雪さん。君たちがいいな」
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