1: ◆yHhcvqAd4.[sage]
2020/10/30(金) 18:09:19.62 ID:w3nnd9V30
スレが立ったら投下します。
【登場人物】
・木下ひなた
・ジュリア
【場面設定】
ミリシタのメインコミュでまだ上記二人のお話が終わっていないぐらいの時期
12,000字無いぐらいですー
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:飢餓感 1/8[sage]
2020/10/30(金) 18:10:30.72 ID:w3nnd9V30
失礼します、と一言かけて、木下ひなたは、今回は忘れずにノックをしてから事務室の扉を開いた。空調の効いた室内は暖かく、視線を合わせてくれたプロデューサーもジャケットを脱ぎ、椅子の背もたれに引っ掛けていた。彼の隣の席は空いており、ひなたはそこへ座るように促された。
一日につき一人十分ほどの短い時間ではあったが、39プロジェクトを契機に765プロダクションに所属することになった39人のアイドル達には、週に一度、面談の時間が設けられていた。ひなたのように実家を離れ、転校もして東京で暮らす者も複数いる。そういった地方出身者は特に優先的に面談を組まれ、親元を離れての生活の相談がしやすいよう、プロデューサーが面談のスケジュール管理を行っていた。
先程、同期の白石紬と廊下ですれ違った時にその優雅な歩き方を見て、ひなたは自分の足取りが重くなっていたのに気が付いたばかりだった。プロデューサーの席の隣に腰かけた時も、きっと不安が顔に出ているに違いない、と感じて、顔を上げ辛かった。
3:飢餓感 2/8[sage]
2020/10/30(金) 18:11:45.87 ID:w3nnd9V30
「ひなたも、ここの誰かの家に泊まりに行ってみたらどうだ?」
「ええっ、だめだめ、そりゃ迷惑になっちゃうべさ」
「いや、そうとも言い切れないぞ。それこそ、一人暮らししてる子もいるんだし、似た立場の人と過ごしてみるのも、お互いリフレッシュにもなるはずだ」
4:飢餓感 3/8[sage]
2020/10/30(金) 18:12:41.88 ID:w3nnd9V30
「うん、領収書、もらってくるねぇ。ありがとう、こんなにしてくれて」
「お安い御用だ。それより、ジュリアに料理の基礎を教えてやってくれ。相当酷いらしいから」
「う、うるせーな。いいだろ別に……まぁ、酷いのは否定しねえけどな」
料理ができないことを指摘されたジュリアの顔は、開き直って得意気ですらあった。ひなたは、ある日の劇場の台所で見た「何か」のことを思い出していた。ひょっとして、あの得体の知れないのはジュリアさんが作ったんだろか、と言いたくなったが、それを口にするわけにはいかなかった。
5:飢餓感 4/8[sage]
2020/10/30(金) 18:13:33.15 ID:w3nnd9V30
「さ、上がりな。女の部屋にしちゃ、殺風景かもしれないけどな」
「うん……お、お邪魔します」
玄関を通ってまずしたことは、両手に提げた袋を下ろすことだった。平坦な1Kの廊下を通り抜けて案内されると、確かにジュリアの言う通り、デコレーションの少ないシンプルな部屋だった。テレビデッキの対面、部屋の中央に設置されたテーブルの上には、何かを書いては消した跡がいっぱい残った紙が、ボールペンと共に何枚か置いたままになっていて、楽譜らしき本がそのすぐ近くに数冊積みあがっていた。
6:飢餓感 5/8[sage]
2020/10/30(金) 18:14:10.57 ID:w3nnd9V30
さっきまでジュリアの作業机だったテーブルが、今はどこからどう見ても立派な食卓になっていた。クッションにお尻を預けた二人の目の前では、ミルフィーユ鍋がくつくつと煮えて食べ頃になっている。その脇には、湯気をほかほかと立てている肉じゃがが、小分けの器に盛られている。当然のものとしてご飯も並べられている。鍋が足りずに味噌汁を用意できなかったことだけが、ひなたの心残りだった。
「ああ……こんな、こんな美味そうなものが、あたしの家に……! 感激だぜ……!」
「お腹ぺこぺこだぁ。さ、食べよう食べよう」
7:飢餓感 6/8[sage]
2020/10/30(金) 18:14:50.77 ID:w3nnd9V30
しばらく腹を休めてから、食後の片付けをひなたは申し出たが、準備をやってもらったから、とジュリアが重ねた食器を台所へ運んでいった。ひなたが肉じゃがの面倒を見ている間にジュリアが風呂の支度を済ませてくれていたようで、先に浴室へ行くように勧められた。ふと壁にかけられた時計を見ると、いつもの就寝時間の30分前だった。すぐに平らげてしまった、と思っていたのに、ゆっくり時間をかけて食事を楽しんでいたことを、着替えを手にしながら実感していた。
自宅のものよりもほんのわずかに広い浴室、その片隅にあったシャンプーとコンディショナーが、ひなたの目に入った。見かけないデザインのボトルだった。トラベルセットの一式を持ち込んでいたが、ジュリアの使っているそれのポンプを押して、ひなたはシャンプーを手に取っていた。もしかしたら、こうすることで、自分もあんな風にクールな表情ができるようになるかもしれない。強い意思力を放つ目をできるようになるかもしれない。ひなたは髪を洗いながら、そんな期待をささやかに抱いていた。
食事を取って温まった体に加えて熱いお湯に浸かったことで、湯上りの肌には汗が浮いた。結局ボディソープも使わせてもらい、自分の体からいつもと違う香りが立ち上っているのが、ひなたは何だか嬉しかった。
8:飢餓感 7/8[sage]
2020/10/30(金) 18:15:26.80 ID:w3nnd9V30
「10時半か……ヒナ、いつも何時ぐらいに寝てるんだ?」
「いつもは9時半か、10時には寝てるよぉ」
非日常的な夜を過ごしてウキウキ気分のひなただったが、まぶたが重たくなってウトウトし始めていた。ベッドに寄りかかって座る今でも、このままじっとしていたら夢の国へ旅立てそうだった。まだ夜更かしして、お泊りの時間を楽しんでいたかったが、一日の三分の一近くを毎日奪い取る三大欲求の持つ引力には逆らうのは、困難を極めた。
9:飢餓感 8/8[sage]
2020/10/30(金) 18:16:13.81 ID:w3nnd9V30
そして、全身が眠気に包まれて、意識までもがふんわりと宙を漂い始めた頃、ベッドの外から話し声が聞こえてきた。すぐ隣にあった温かさは残されていたが、熱の発生源が感じられない。声を抑えて話しているようだったが、物音のしない部屋の中でそうしていても、ひなたには話し手の一方が丸聞こえだった。
――もしもし。あ、夜遅いけど、大丈夫だったか? いや、別に用があったわけじゃないけど……悪いかよ。用が無かったらあたしから電話しちゃいけねーなんてこと、無いだろ? ちょっと今日、事務所の友達と話してて。家族仲のいい子でさ……。うん。ウチの家族はどうしてんのかな、って。ん? 学校ならサボらず行ってるぜ? 仕事ある時は抜けてるけど。え……いや、実家にいつ帰れるかは、ちょっと分からねぇよ……いきなり仕事入ったりするし。年末年始は、無理じゃねえかなぁ……。まぁ、一応プロデューサーに話してみる。あ、あたしがテレビに出たら見て……あ〜、やっぱ見ないでくれ。見ないでいいってば。
明日はいい朝が迎えられそうだ、とひなたは眠りかけの頭でぼんやりと考えていた。
10: ◆yHhcvqAd4.[sage]
2020/10/30(金) 18:21:08.49 ID:w3nnd9V30
以上になります。ここまで読んで頂きありがとうございます。
一応続きになるお話は考えてあるので、また書きあがったら投下しに来るかと思います。
書いてみた感想
11:名無しNIPPER[sage]
2020/10/30(金) 20:03:30.29 ID:wQg+iatf0
>>2
木下ひなた(14) Vo/An
https://i.imgur.com/vAdN7Bb.png
https://i.imgur.com/a4xaHvr.png
>>3
12: ◆NdBxVzEDf6[sage]
2020/10/30(金) 20:06:00.89 ID:wQg+iatf0
上京組に焦点当てた話いいねぇ
私は特に違和感感じなかった。乙です
>>2
木下ひなた(14) Vo/An
13:名無しNIPPER
2020/10/30(金) 23:02:46.30 ID:DSVQ6hOUO
ひなたを守ってあげようとするジュリア:ジュリアに憧れを抱いてるひなた…って構図が尊かった
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