【ミリマス】木下ひなたが外泊する話
1- 20
7:飢餓感 6/8[sage]
2020/10/30(金) 18:14:50.77 ID:w3nnd9V30
 しばらく腹を休めてから、食後の片付けをひなたは申し出たが、準備をやってもらったから、とジュリアが重ねた食器を台所へ運んでいった。ひなたが肉じゃがの面倒を見ている間にジュリアが風呂の支度を済ませてくれていたようで、先に浴室へ行くように勧められた。ふと壁にかけられた時計を見ると、いつもの就寝時間の30分前だった。すぐに平らげてしまった、と思っていたのに、ゆっくり時間をかけて食事を楽しんでいたことを、着替えを手にしながら実感していた。

 自宅のものよりもほんのわずかに広い浴室、その片隅にあったシャンプーとコンディショナーが、ひなたの目に入った。見かけないデザインのボトルだった。トラベルセットの一式を持ち込んでいたが、ジュリアの使っているそれのポンプを押して、ひなたはシャンプーを手に取っていた。もしかしたら、こうすることで、自分もあんな風にクールな表情ができるようになるかもしれない。強い意思力を放つ目をできるようになるかもしれない。ひなたは髪を洗いながら、そんな期待をささやかに抱いていた。

 食事を取って温まった体に加えて熱いお湯に浸かったことで、湯上りの肌には汗が浮いた。結局ボディソープも使わせてもらい、自分の体からいつもと違う香りが立ち上っているのが、ひなたは何だか嬉しかった。

「あー、ヒナ、悪い」

 浴室から部屋に戻ると、ギターの弦をいじっていたジュリアが、少々気まずそうにベッドの方へ視線を流していた。

「すっかり忘れてた、予備の布団が無いんだった。一緒のベッドで寝ることになっちゃっても、平気か?」
「うん、大丈夫だよぉ」

 一人暮らしの人の所へ泊まりに行くのだから、それはひなたの予想の範疇だった。実家でも祖父母や両親、あるいは弟と同じ布団で寝ることも多かったために、人肌の熱を感じながら眠ることにはさしたる抵抗も無かった。入れ替わりで浴室に向かっていくジュリアの背中を見送りながら、まだ整えられていないベッドが、ひなたには気になった。掛け布団の下敷きになるように毛布があって、毛布とマットレスの隙間に体を入れているらしいことが窺えた。毛布は、かけるよりも敷いた方が温かい。ちょうど、話し相手がしばらくいない所だったから、ひなたはそのままベッドメイキングを始めた。自分が使っているものよりもずいぶんと長いサイズの枕が気になった。二人で頭を載せるのにも苦労しなさそうだったが、もしかしたら抱き枕として使っているのかもしれない、ともひなたは思った。

「ふ〜、さっぱりしたぜ」
「……あっ」

 30分ぐらいは入っているのではないかとひなたは予想していたが、ジュリアは10分そこそこで入浴を終えた。スウェットの上下に身を包んだ風呂上りのジュリアは、髪を全て下ろし、メイクも落としていた。ステージに上がる時にはいつもジュリアは髪を下ろしていることをひなたは知っていたが、アイドル用のメイクもしていない素顔を見るのは初めてだった。

「ん? どうしたヒナ? あたしの顔に何かついてるか?」
「ジュリアさん、お化粧してないときのお顔、めんこいねぇ」
「……メンコイ?」
「可愛いって意味だよぉ。お目目くりくりしてて可愛いべさ」
「え、あ? い、いきなり何言ってんだよ」

 肩にかけていたフェイスタオルでジュリアは目から下を覆ったが、耳がほんのり赤くなっていた。今日一日ずっとカッコいい姿を見せていたジュリアが照れているのを見ると、ひなたも何だかこそばゆかった。

「さっきまではオトナっぽかったけど、今は歳が近く感じるんだわぁ。あたしと二歳しか違わないもんねぇ」
「童顔だからな。もうちょっと年上に見えて欲しいもんだぜ」

 ジュリアはそう言っていたが、学校の先輩みたいな距離感の、今の優しい顔の方が好きかもしれない、とひなたは内心で呟いた。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
13Res/25.91 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice