中野攻「墓碑のような夜のビルの前に花束が」 【亜人SS】
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4: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:08:59.67 ID:FGITa5EtO

 おれもだけど、と言ってマサさんは笑った。

 マサさんは選挙についてそれ以上言わず、弁当を食い終わった後、クーラーの効いてる食堂でいつものように昼寝しだした。おれは自販機にコーラを買いに行った。自販機のすぐ横のゴミ箱のそのすぐ横には灰皿が置いてあって、昼飯が終わってからすぐに昼寝しない人らはここでタバコを吸っていた。この日はここに四人いて、作業服がきれいな事務所の人と現場の人間が半分ずつだった。

以下略 AAS



5: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:09:48.31 ID:FGITa5EtO

「そういや、選挙どこに投票します?」


 おれが意外なことを言ったのか、浅野さんと中村さんが顔を見合わせた。
以下略 AAS



6: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:11:48.54 ID:FGITa5EtO

「田中は逃げたのか」

「あと、永井も」

以下略 AAS



7: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:12:40.16 ID:FGITa5EtO

 おれは二人の会話を聞きながら、それで結局選挙はどこに投票すればいいだろうと思い、そのことをまた質問しようとしたところで昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。結局、その日は仕事が終わるまで政治の話も亜人の話も出てこなかった。次の日もそうで、その次の日もそうだった。ニュースでは選挙の話がやってるのに、職場ではもう話されなくなっていた。世間ってこんなもんかと思いつつ、おれは残業が終わって家に帰ってからスマホで亜人の法律について調べたらしたけれどやっぱりよくわからなかった。それでおれは関心があって法律のこともわかってそうな人に電話した。


『もしもし』
以下略 AAS



8: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:13:26.04 ID:FGITa5EtO

「今度選挙あるじゃん」

『ああ、あるな』

以下略 AAS



9: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:14:31.53 ID:FGITa5EtO

 秋山さんは笑って、それから話の続きをした。

 秋山さんが言うには新亜人管理法に反対している政党の主張にはそれぞれ違いがあって、最大野党は主に個人情報やプライバシーの侵害を軸に反対していて、ほかの野党もだいたいこれに同調してるらしい。それから国会で議席がいちばん少ない政党もこの法案に反対してるんだけど、この政党は反対してるだけじゃなくて亜人にも日本国民と同等の権利を与えるように主張しているってことだった。

以下略 AAS



10: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:15:31.40 ID:FGITa5EtO


『おれとしては国民の大多数が関心を持つような主張をしているほうが現実味があって応援する気になるよ』

「だったら、そこに投票する意味ねえなー」
以下略 AAS



11: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:16:29.41 ID:FGITa5EtO

 それから少し雑談してから、おれは電話を切った。いい加減暑くなっていたから、おれは部屋に戻って窓を閉めてエアコンの風にあたって汗が引くまでベッドの上であぐらをかいて口を開けていた。冷たい風を堪能しながら、なんか扇風機にむかって声を出してるみたいだと思った。口を開けていると喉が渇いてきた気がして冷蔵庫を開けてみたけど、飲みたいものはなかったので、しかたなく水道水を飲んだ。冷たい水を期待したけど、水道水はぬるくてあんまり水分補給になった気がしない。

 ベッドに戻り、充電器につないでいたスマホを手に取った。難しいことを調べる気にはなれなくて、パズルゲーでもしようかと思ったけどアプリが重くてログインできなかった。おれはあきらめて今日はもう寝ることにした。

以下略 AAS



12: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:17:30.62 ID:FGITa5EtO

 投票日はフォージ安全で佐藤と戦った日からちょうど一年後だったので、おれは家からいちばん近い投票所には行かなくて、途中で元フォージ安全のビルの前を通る投票所へ行った。

 午後から半休を取って、電車を乗り継いでバスに乗った。バスの中で投票の流れをスマホで調べながら、たまに窓から景色を眺めた。めちゃくちゃ高いビルに、歩道を歩く半袖のカッターシャツの会社員たちが見える。おれとは無縁な人らだと思ったけど、もしかしたらこの中に亜人がいるのかもしれないとも思った。見覚えのあるビルが近づいてきているのが見えて、おれはバスから降りた。投票所までちょっと距離があるけど、歩いていけなくはなかった。

以下略 AAS



13: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:18:26.78 ID:FGITa5EtO

 投票所は小さな公民館で冷房が効いて涼しかった。受付の人に投票所入場券を渡して本人確認が済んでから投票用紙を渡された。ツルツルしていて手触りが良かった。こんな紙は生まれて初めて触った。おお、すげーなって感じだ。

 記載台には候補者の名前が書いてある紙が貼られていて、おれはその中からどの人の名前を書くか少し迷い、おれは亜人だしそれに他の亜人のためになる人がいいよなと考え、亜人の権利を主張しているところの名前を書いた。おれの書いた字は下手くそでこれでほんとに投票できるのかとすこし不安になった。二つ折りにした投票用紙を投票箱に入れた。おつかれさまでした、と投票箱の前にいた人が言った。

以下略 AAS



14: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:19:14.00 ID:FGITa5EtO

 ラーメンと炒飯を食って花を買ってからフォージ安全があったビルに戻ってきたときにはもう日が沈んで夜になっていた。周りのビルには灯りが点いていて、フォージ安全があったビルだけ真っ暗だったから昼に見たときよりますます墓石みたいに見えた。おれは平沢さんたちのために花束を買ったから、供えるなら十五階と屋上に供えたほうがいいだけど、ビルは侵入禁止だったから近づけるギリギリのところに花束を供えることにした。

 ビルの入り口のあたりは道路工事で見るようなフェンスで塞がれていた。殺風景で、まるでこれから解体工事が始まるみたいだった。
 花を供えるんなら真正面がいいよなと思ったので、おれはフェンスの隙間を覗いてビルの入り口を探した。しばらくフェンスの前をウロウロして、おれはやっとビルの入り口を見つけ出した。ホッとしてそこに花束を置こうとしたとき、おれは気づいた。


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