6:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:07:29.96 ID:nJ12rVXd0
変な思考が膨らんだ隙のどさくさでプロデューサーが今日のこの恒例を終わらせようとするようなことを言う。半ば思考に意識を引っ張られながらも聞き逃さなかった私は、現実へ戻ってそれを遮った。
終わっちゃ駄目。これからが重要なんだから。
プロデューサーも本当に終わらせたいと思っている訳ではないはずだけど、でも恥ずかしがり屋で素直じゃないプロデューサーは本心はどうあれ本当に終わらせてしまいかねないから。
「…………駄目か?」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:08:38.42 ID:nJ12rVXd0
言いながら、頬が少し熱くなる。
まるで漫画みたい。これまでは物語の中で描いていたみたいなやり取り。これまでは物語の中で言わせていたような台詞。これまではやってみたいだけ、言いたいだけだったことを、こうして現実自分で実現させて。
全部晒した。何も隠さずだらけきった私も。アイドルとしてまっすぐ前を向いて走る私も。全部見せた。だから叶えられる。全部を見せたプロデューサーの前でだけの……自信が持てずに照れて足踏むよりも、それよりも大きくなったこんな素直な私さえ。なりたい私。やりたい私も。
頬は、熱くなるけれど。胸はドキドキ高鳴って、息も荒くなるけれど。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:09:53.63 ID:nJ12rVXd0
ソファの肘掛けに顔を押し当ててぐりぐり。
言いたいことを言う。やりたいことをやる。ようやくできるようになったそれらも、でも今はまだできるだけ。様にはならない背伸びの現実。
もちろんそんなことは自覚していたけれど、それを実際指摘されるとどうにもこうにも恥ずかしい。むずむずするというか、なんというか。
入れ知恵されてからこっそり憧れていたシチュエーションを叶え攻勢に出ていたはずが、冷静に見抜かれ、言葉にして指摘され、なんだかちょっと悔しくなって倒れ込んだ。
……まあそれはすぐ、倒れ込むその瞬間に霧散してしまったけれど。顔を伏せてからのぐりぐりは悔しさのためじゃなく愛おしさのためだけど。倒れ込む瞬間、プロデューサーが照れた顔をしているのが見えたから。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:10:35.04 ID:nJ12rVXd0
ほらほら。
身体を起こして座り直し、少し傾いていた眼鏡の位置を整えながらばしばし、と太ももを叩く。
たぶん今もまだちゃんとは抑えきれていないんだろうけど、でもまあ少しは引き締められたはずの……と、思う、顔を上げて。
改めて確かめてみれば、やっぱり微かに顔を緩ませていたプロデューサーへ催促を。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:11:23.15 ID:nJ12rVXd0
ドライに、とか事務的に、とか。そんなのきっと冗談なのは分かっているけど。でもそれに悲しくなって。苦しくなって。……無いとは確信していても普段から時々頭に過る、綺麗で可愛い女の人がたくさん行き交うこの事務所の中に居るとどうしても考えてしまうことのある嫌な想像を言葉にされて、ついむっとしてしまった。
分かっていること。分かられていること。本音を思わず漏らしてしまう。
「あーまあ……そうだな、それじゃあその、分かった。言うから」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:11:59.75 ID:nJ12rVXd0
「……ん、ここでいいのか?」
「はいっス。あと手」
「手?」
「ん……ほら」
「……握るの?」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:12:44.30 ID:nJ12rVXd0
「……」
「……」
「…………比奈」
「……はい?」
「いいか?」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:13:31.27 ID:nJ12rVXd0
「……愛してる」
「比奈となら絶対に居続けられる。一緒に居られる。一緒に居たい。比奈と俺とで同じ道を添い遂げたい。そう心から思える。それを心から誓えるくらい、愛してるんだ」
「大好きだよ。他の誰よりも、何よりも、比奈のことが。俺の大事なアイドルで、俺の大切な女性である貴女が。荒木比奈、貴女のことが」
「だから。……だからどうか叶えてほしい。俺のこの愛を。比奈もまた、同じ愛を抱いてくれているのなら」
「結婚してください。……貴女を、愛しています」
14:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:14:10.08 ID:nJ12rVXd0
「……はい。喜んで」
身体を倒す。
委ねるようにプロデューサーのほうへ倒れ込む。受け止めてくれた胸元へ顔を埋め、片方の腕を背に回され抱き締められる。
ドキドキ胸を高鳴らせながら、ドキドキ高鳴る胸の音を聴く。熱くなった身体、熱くなった手で中に抱いたプロデューサーを握って弄り、熱くなった手のひらの感触を背中に感じる。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:14:59.50 ID:nJ12rVXd0
一瞬プロデューサーが強張って、でもすぐ柔く溶けて受け入れてくれた。拒んだり指摘しないでいてくれた。私の言葉を遮らず、ちゃんと聞いて受け取ってくれた。
今はまだ建前無しで応えられない私のことを、でもちゃんとこうして応えてくれた。
ぽかぽか、と嬉しくなる。これまで何度も繰り返してきた、きっとこれからも繰り返す、いつか本当になるプロポーズ。それにとても。とってもとっても。
「……プロデューサー」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:23:33.85 ID:nJ12rVXd0
以上になります。
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