2:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:04:02.85 ID:nJ12rVXd0
「それは、本気の言葉っスか?」
「……ああ」
「そうっスか。……うん。……うん。そーっスね……」
「比奈」
「……プロデューサー」
3:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:05:06.32 ID:nJ12rVXd0
「一応ちゃんと考えてはいたんだけどさ、なかなかどうにも良い閃きがなくて。……というか流石にそろそろ限界だわ」
「アイドルをプロデュースする人間が発想貧困でどうするんスか」
「いかにプロデューサーといえど百も越えれば告白のバリエーションも尽きるってものなの」
「言い方も雑だし」
「そりゃあ何百とやってればねぇ」
4:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:05:57.79 ID:nJ12rVXd0
「台詞のネタを提供するのに感情込める必要性はあんのかね」
「大ありっスよ。プロポーズなんて愛を伝えるための台詞なんスから、そこに想いが込もらないでどうするんスか。響かないっスよ。たとえ台詞自体が良くたって」
「その辺は比奈の脳内で感情込もった声を入れてくれれば」
「無理っス。不器用なんで」
「いつも妄想に浸ってるときやってるだろ」
5:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:06:39.78 ID:nJ12rVXd0
ぐしゃぐしゃ、とプロデューサーが頭を掻く。普段人と会うときには綺麗に整えている髪がまるで寝癖みたいにボサっと乱れた。しっかり者のこの人がなかなか見せてくれないだらしなさの片鱗を覗けたみたいでなんだか少し嬉しくなる。
……。というか、嬉しいのはそれとしてそう、あれだ。プロデューサーは私のそういう姿をたくさん見ていて知ってるのに、私はこうしてたまにしかプロデューサーのそれを覗けないのはずるい気がする。不公平だ。私はあんなに許しているのに。時々、最近はほとんどわざと隙を見せてアピールしたりしているのに。ドキっとしてくれたらな、なんて思いながら無防備な姿を晒しているのに。
ずるい。もっと私も見せてほしいのに。許した分だけ許してほしいのに。たくさん甘えさせてほしいから、たくさん甘えてほしいのに。
ずるい。酷い男。悪いプロデューサー。ほんとにー……
6:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:07:29.96 ID:nJ12rVXd0
変な思考が膨らんだ隙のどさくさでプロデューサーが今日のこの恒例を終わらせようとするようなことを言う。半ば思考に意識を引っ張られながらも聞き逃さなかった私は、現実へ戻ってそれを遮った。
終わっちゃ駄目。これからが重要なんだから。
プロデューサーも本当に終わらせたいと思っている訳ではないはずだけど、でも恥ずかしがり屋で素直じゃないプロデューサーは本心はどうあれ本当に終わらせてしまいかねないから。
「…………駄目か?」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:08:38.42 ID:nJ12rVXd0
言いながら、頬が少し熱くなる。
まるで漫画みたい。これまでは物語の中で描いていたみたいなやり取り。これまでは物語の中で言わせていたような台詞。これまではやってみたいだけ、言いたいだけだったことを、こうして現実自分で実現させて。
全部晒した。何も隠さずだらけきった私も。アイドルとしてまっすぐ前を向いて走る私も。全部見せた。だから叶えられる。全部を見せたプロデューサーの前でだけの……自信が持てずに照れて足踏むよりも、それよりも大きくなったこんな素直な私さえ。なりたい私。やりたい私も。
頬は、熱くなるけれど。胸はドキドキ高鳴って、息も荒くなるけれど。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:09:53.63 ID:nJ12rVXd0
ソファの肘掛けに顔を押し当ててぐりぐり。
言いたいことを言う。やりたいことをやる。ようやくできるようになったそれらも、でも今はまだできるだけ。様にはならない背伸びの現実。
もちろんそんなことは自覚していたけれど、それを実際指摘されるとどうにもこうにも恥ずかしい。むずむずするというか、なんというか。
入れ知恵されてからこっそり憧れていたシチュエーションを叶え攻勢に出ていたはずが、冷静に見抜かれ、言葉にして指摘され、なんだかちょっと悔しくなって倒れ込んだ。
……まあそれはすぐ、倒れ込むその瞬間に霧散してしまったけれど。顔を伏せてからのぐりぐりは悔しさのためじゃなく愛おしさのためだけど。倒れ込む瞬間、プロデューサーが照れた顔をしているのが見えたから。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:10:35.04 ID:nJ12rVXd0
ほらほら。
身体を起こして座り直し、少し傾いていた眼鏡の位置を整えながらばしばし、と太ももを叩く。
たぶん今もまだちゃんとは抑えきれていないんだろうけど、でもまあ少しは引き締められたはずの……と、思う、顔を上げて。
改めて確かめてみれば、やっぱり微かに顔を緩ませていたプロデューサーへ催促を。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:11:23.15 ID:nJ12rVXd0
ドライに、とか事務的に、とか。そんなのきっと冗談なのは分かっているけど。でもそれに悲しくなって。苦しくなって。……無いとは確信していても普段から時々頭に過る、綺麗で可愛い女の人がたくさん行き交うこの事務所の中に居るとどうしても考えてしまうことのある嫌な想像を言葉にされて、ついむっとしてしまった。
分かっていること。分かられていること。本音を思わず漏らしてしまう。
「あーまあ……そうだな、それじゃあその、分かった。言うから」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/30(月) 23:11:59.75 ID:nJ12rVXd0
「……ん、ここでいいのか?」
「はいっス。あと手」
「手?」
「ん……ほら」
「……握るの?」
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