芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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140: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:25:09.06 ID:hoMUvMIQo

 次に停まる駅の名前を告げるアナウンスが車内に流れる。
 架橋を越えて最初の駅、私はそこで列車を降りた。
 エスカレーターで一階まで下りて、改札を潜り、西口から出て徒歩数分。
 こうしてみると、事務所は意外と近くにある。
以下略 AAS



141: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:25:48.35 ID:hoMUvMIQo

「おはよう」

 すると、私からみて右側、キッチンのほうから、白いマグカップと一緒にスーツ姿のプロデューサーさんがふらりと現れた。
 右手に持った小さな器からはこれでもかとばかりに湯気が立ち上っている。
以下略 AAS



142: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:26:23.72 ID:hoMUvMIQo

「プロデューサーさん、珈琲なんか飲むんすね。知らなかったっす」
「まあ、基本的に朝にしか飲まないからな」
「美味しいっすか?」
「いや、別に。一口飲んでみるか?」
以下略 AAS



143: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:26:54.32 ID:hoMUvMIQo

 窓際に置かれている直角型のソファの一番端に彼は腰かけた。
 私は同じソファのもう一方の端っこにぺたりと座り込む。
 ちょうど私たち二人は対角線上で向かい合っている形だ。
 その間には小さくて使い勝手のよさそうなテーブルが、しかしお互いになんとか手が届きそうというくらいの絶妙に離れた場所にあった。
以下略 AAS



144: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:27:39.06 ID:hoMUvMIQo

 その内容とは、いずれ発売する予定だった私の曲の歌詞を、他でもない私自身が書くというものだ。
 あの人が置いていった仕事は他にも幾つかあったけれど、私とは直接関係のないものを全部合わせても、最後の最後まで残ったのはこれだった。

 作詞なんてやったことは、遊びでさえ一度もなかったけれど、いざ書き始めてみれば思いのほかスラスラと言葉は並んでいった。
以下略 AAS



145: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:28:15.10 ID:hoMUvMIQo

 詳しいことは何も知らない。知りたくもなかったから、そもそも訊かなかった。
 ただプロデューサーがいなくなったということだけが絶対的な事実だった。
 あの日を境に、私の中で無意識のうちに確かだと信じきっていた何かが崩れてしまったのだと思う。
 そんな感覚が何となくあった。
以下略 AAS



146: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:28:46.96 ID:hoMUvMIQo

「結局、あれから何か変えたのか?」

 青色のクリアファイルを手に持ったまま、彼はそう言った。
 私は首を振る。
以下略 AAS



147: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:29:20.27 ID:hoMUvMIQo

「訪ねてみるまでは、何かが変わってしまうかも、って思ってたっすけどね」

 何かが変わってしまったのなら、その結果に従って全部書き直そうと思っていた。
 だけど結局、何も変わらなかった。
以下略 AAS



148: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:30:02.10 ID:hoMUvMIQo

「読まないんすか?」

 私はわざとらしく首を傾げて言った。
 彼はクリアファイルを手にしたままで、ずっと何かを躊躇っているようにみえた。
以下略 AAS



149: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:30:34.59 ID:hoMUvMIQo

「どうせプロデューサーさんは目を通さなきゃいけないじゃないっすか」
「そうだけどさ。それはそれとして、こう、あるだろ何か」

 何を表しているのかも分からない妙なジェスチャーを交えて彼は答えた。
以下略 AAS



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