芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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145: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:28:15.10 ID:hoMUvMIQo

 詳しいことは何も知らない。知りたくもなかったから、そもそも訊かなかった。
 ただプロデューサーがいなくなったということだけが絶対的な事実だった。
 あの日を境に、私の中で無意識のうちに確かだと信じきっていた何かが崩れてしまったのだと思う。
 そんな感覚が何となくあった。
 家に帰っていつものノートを開いてみても、それまでに書き並べた言葉の全部が嘘みたいだった。
 本当に自分が書いたものなのかも怪しかった。
 ノートのページはその日のうちに破いて捨てた。

 それからずっと、私は言葉を探し続けた。
 何度もペンを走らせて、その上から消しゴムで強く擦りつけて、そんなことを何度も繰り返した。
 そして、その度にプロデューサーのことを思い出した。
 あの人は何を思ってこの仕事を私に持ってきたのだろう?
 私の言葉を楽しみにしているとあの人は笑ったけれど、だけどもうどこにもいない。
 決して届くはずのない言葉を今更みつけるなんて、こんなの、ほとんど地獄みたいなものだ。
 そんなことを何度も考えて、だけど私は探し続けた。
 何もかもが遅すぎるほどに手遅れだとしても、それでもたった一つの言葉に届きたくて。

 私がその詞をついに書き終えたのは、いまからちょうど一週間前のことだった。




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