160: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:39:59.74 ID:ZRhpxi3E0
かつての山男とはいえ、そのブランクは深刻だった。まして彼は、ここ暫くはろくに部屋から出てすらいなかったのだ。
女体山頂を目指すコースは、かなりの急勾配だ。それを彼は、必死に進んでいく。
P「紗代子……今、行くぞ……紗代子……」
161: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:42:15.83 ID:ZRhpxi3E0
紗代子「プロデューサー……ですか?」
P「紗代子……!」
どこにこれほどの元気が残っていたのかという勢いでプロデューサーは立ち上がると、肩を掴んだ。
162: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:43:37.78 ID:ZRhpxi3E0
P「なんだ……俺の早トチリか……良かった……」
紗代子「プロデューサー、もしかして私を心配して来てくれたんですか?」
プロデューサーの傍らに、紗代子は腰を下ろす。その顔つきは、心配と申し訳なさがない交ぜになっている。
163: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:44:56.58 ID:ZRhpxi3E0
P「いや、無事で何よりだ……」
青空がプロデューサーの目に映る。確かにいい天気だ。
もう人前に出ることもない。そう考えていた自分が、気がつけばここまで夢中でやって来て、空を見上げている。
それがなんだか可笑しかった。無性に可笑しかった。
164: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:45:22.08 ID:ZRhpxi3E0
麗花「じゃあ紗代子ちゃんは、お迎えに来た白馬の普通の人にお任せしちゃいますね」
P「べ、別に俺は1人で帰るつもりだ……が」
165: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:45:52.45 ID:ZRhpxi3E0
麗花「紗代子ちゃんのプロデューサーさんは、山登りをする人なんですね?」
この娘は、おそらく自分の服装や装備を見てそう思ったのだろう。
プロデューサーは、そう思った。確かにそれなりに準備をしたとはいえ、着ているものも持っている装備も、いささか年季が入ってはいるが、それなりのものだ。
166: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:46:21.03 ID:ZRhpxi3E0
北上麗花は、顔に風を受け微笑んでいた。
幸せな気持ちだった。
どうして紗代子が急に山に行きたいと言い出したのか、彼女はなんとなく言葉を濁していたが、彼女のプロデューサーに出会ったことで、麗花は全てを理解した。
167: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:48:13.37 ID:ZRhpxi3E0
麗花と別れた後、2人は駐車場に停めてあったプロデューサーの車に乗り込む。そして車が走り出しても、2人は無言のままだった。
それぞれ、お互いに話したいこと、聞きたいことはたくさんある。
だが、そのきっかけが掴めない。
168: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:50:04.55 ID:ZRhpxi3E0
P「いや、それはいい……んだが、そもそもなんで山に登ろうと思ったんだ?」
プロデューサーの問いに、急に紗代子は俯く。その頬は少し赤くなっている。
P「どうした?」
169: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:51:20.17 ID:ZRhpxi3E0
紗代子「ひとつは、プロデューサーの言ってた事は本当だった、ってことです」
P「俺が?」
紗代子「必死な人の懸命な声は人の魂に届く、という話です。プロデューサーの私を呼ぶ声、聞こえました。確かに……」
170: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 14:54:34.95 ID:ZRhpxi3E0
P「いや、わかった。行くよ、明日は劇場に」
紗代子「良かった! 私、全力でがんばります。そして……」
P「え?」
344Res/278.89 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20