244:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:18:35.68 ID:1/ZkFkMM0
「でもさー、やっぱいいなぁちとせさん」
ふと、莉嘉さんが口を尖らせて羨ましげにちとせさんの方を向いた。
「あーんなスゴい人に、特別にレッスン見てもらえてたなんてさ」
245:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:20:17.51 ID:1/ZkFkMM0
「いや、杏は感想を言っただけだけど」
「それなら無償の愛……杏ちゃんのアガペーとして受け取っておくね」
面倒くさそうに手を振った杏さんが寝返りを打つのを見届けると、ちとせさんは莉嘉さんに向き直る。
246:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:27:20.20 ID:1/ZkFkMM0
今日のセットリストは、シンデレラプロジェクトとプロジェクトクローネ、双方のアイドルが交互に登場する運びとなっている。
注目すべきちとせさんの登場は、最後から4番目。私はその次だ。
なぜあの人が大トリでないのかというと、今日のセットリストはアイツや常務ではなく、私達アイドル同士で話し合って決めたからだ。
そして、それをフェスの当日にあみだくじで決めようなどという無茶な提案をしたのは、他でもない美波さんだった。
247:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:29:39.13 ID:1/ZkFkMM0
思い返せば、サマーフェスで私にそれを仕掛けたことで、彼女は味を占めた可能性もある。
この提案に諸手を挙げて賛成し、皆を囃し立てたのはフレデリカさんだ。
最近になって気づいたが、この二人は大学1年生の19歳同士で、文香さん含め、双方のプロジェクトにおける最年長という共通点がある。
だが、クローネと交流するようになり、フレデリカさんと仲良くする機会も多かった美波さんは、明らかに彼女からの悪影響を受けたに違いなかった。
248:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:32:07.60 ID:1/ZkFkMM0
本番直前、ステージ衣装に着替えて舞台袖に立つ。
入場口が開放されて間もなく、客席は満杯になった。
屋内の会場は初めてだったが、観客達の興奮と期待が込められたざわめきが大気に霧散しないまま、余さずこちらに届いてくる。
湧いてくる緊張感は、こちらの方が上かも知れない。
249:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:36:19.32 ID:1/ZkFkMM0
「そういえば、千夜ちゃん」
「あ、いたいた。ちとせさん千夜ちゃん、ちょっと皆でMCの……」
李衣菜さんの真っ直ぐな声が聞こえた瞬間、それはテキトーな調子のあの人に遮られた。
250:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:40:36.07 ID:1/ZkFkMM0
「……話の続きを」
これ以上、この人に自嘲じみた心持ちになってほしくなくて、話を促すと、「あぁそうそう」と胸の前で手を合わせた。
「千夜ちゃん、あの人から話、聞いた?」
251:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:44:15.05 ID:1/ZkFkMM0
結局、リハーサルは見なかった。
どんな様子だったのかを、他の皆から聞くこともしなかったし、皆も私に配慮をしてくれたのだろう。誰も話をしてこなかった。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なぁに、畏まっちゃって」
252:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:49:50.14 ID:1/ZkFkMM0
「そんなこと、聞かれても分からないなぁ。
期待に応えると言ったって、ほとんど知らない人だし……ただ、ひとつだけ思い知らされたのは、私自身の愚かさ」
俯き、胸に手を当てて、ちとせさんはそれまで押さえ込んでいたであろう想いを私に吐露する。
253:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:51:51.28 ID:1/ZkFkMM0
「いえ」
私が真っ直ぐに見つめると、その視線に気づいた彼女が私に向き直ってくれた。
「私の方こそ、この事務所で多くのことを学び、多くのものを得ることができました。
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