10: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:17:29.59 ID:FCK0uUJh0
最初はスられたとも思ったのだけれどあんな型落ちもいいところのケータイ、金を貰ったって欲しがる人はいないだろう。だが俺にとってはかけがえのないケータイだった。あの動画を見れるのは、あのケータイだけなのだから。
(……こんなことなら早々に買い替えておくべきだったかな。ああ、ちくしょう)
今更悔いても仕方がない。一縷の望みをかけて最寄りの交番へと向かいながら、俺は嘆息する。もっとも、あのデータをどうにかして残しておく術は限られていたと思う。型落ち過ぎて吸い出す手段はないだろう。
11: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:18:30.13 ID:FCK0uUJh0
(あの様子じゃ多分届いていなさそうだな……)
そんな風に悲観的に考えつつ、とりあえず傍のパイプ椅子に腰を掛けた。それから三分ほど経つ。お巡りさんはまだ戻ってこない。
『やっぱり駄目そうだな……』
12: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:19:01.49 ID:FCK0uUJh0
(――この子しかいない)
うわごとのように俺は思う。そして声を掛けようと思って……今自分のいる場所を思い出す。交番だ。ああ、くそ。流石にそこまでネジは吹っ飛んでいない。喜ばしいことだ、多分。でも、ちくしょう、この機会を逃すわけには。
そんな葛藤を抱いている俺に彼女も気付いたらしい。ただ、単に先客として扱われたのだろう、軽く会釈だけを俺に向けてから覗き込むように交番へと入ってくる。
13: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:20:28.69 ID:FCK0uUJh0
……と、そんなことを思っているうちにふと気づいた。彼女の持っている物。とても、とっても見覚えがある。傷だらけの蒼いケータイ。折れ曲がったワンセグ用のアンテナと、汚れで黒ずんだどこかのご当地キャラのストラップ。
――あれは俺のケータイでは?
好機だ、好機でしかない! そう思って声を掛けようとした瞬間、
14: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:21:00.56 ID:FCK0uUJh0
「うーん、もしそうだとしても一応規則ですからね。お手数ですけれど、確認と書類を作成しますのでご協力いただけますか」
「……まあ、いいですけど」
「申し訳ありません。ああ、そちらのお兄さんも。ちなみにそちらの方が持っている携帯電話で間違いないですか?」
15: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:21:35.34 ID:FCK0uUJh0
(……いや、これは完全にヤバい思考だ。ないな、うん、ない)
そろそろ暴走し始めていたので理性で押さえつけ、落ち着かせるために交番の天井を見上げる。無機質な白の天井。防音材か何かかは分からないけれど、所々穴が開いている。あれは何のためにあるのだろうか。
そんな取り留めもないことを考えていると、お巡りさんが二枚の紙ぺらを俺と、少女の方へ差し出した。
16: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:22:02.09 ID:FCK0uUJh0
『大丈夫ですか、これで。なんか不足とか……』
「ええと、特になさそうです。ご協力、感謝いたします」
『いえ、こちらこそお手数をおかけしたようで。ありがとうございました』
17: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:22:29.07 ID:FCK0uUJh0
『ありがとう。ケータイ、拾ってくれて』
その言葉に、彼女は一瞬だけ足を止めて、そして軽くこちらを振り向いた。ちらりと目が合う。胡乱だと思っていたその目はじっと俺を見据えている。……なんてことだ、胡乱なんて、とんでもないじゃないか。
彼女は微かな笑みを浮かべ、じっとこちらを見ていた。少なくとも俺にはそう見えた。そして射貫かれるような鋭い視線の中にあった、“良かった”なんていう安堵の色。
18: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:25:17.64 ID:FCK0uUJh0
本日はここまでになります。
また数日中には続きを投稿する予定です。
ありがとうございました。
19:名無しNIPPER[sage]
2019/08/01(木) 23:26:58.97 ID:6IDlGcD20
お帰り
7人目から読み返してくるかな
20:名無しNIPPER[sage]
2019/08/01(木) 23:46:34.39 ID:b9owjELd0
楽しみにしてます。
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