17: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:22:29.07 ID:FCK0uUJh0
『ありがとう。ケータイ、拾ってくれて』
その言葉に、彼女は一瞬だけ足を止めて、そして軽くこちらを振り向いた。ちらりと目が合う。胡乱だと思っていたその目はじっと俺を見据えている。……なんてことだ、胡乱なんて、とんでもないじゃないか。
彼女は微かな笑みを浮かべ、じっとこちらを見ていた。少なくとも俺にはそう見えた。そして射貫かれるような鋭い視線の中にあった、“良かった”なんていう安堵の色。
もちろんそれも俺がそう感じたにすぎないけれど、きっと間違いじゃあない。そう信じたい。
彼女は軽い会釈を俺に交わし、再び前を向いて歩いていく。とてつもない強さと真っすぐさの象徴。俺にとってその後姿はそう見えた。
それで、俺はもう駄目だった。ほぼ無意識に取り出したケータイ。頭は何も命令を下していないのに、体が勝手に動いたとしか思えない手つきでカメラを起動させて。
雑踏の中へ消えゆく、制服姿の少女へとそれを向ける。どこか、映画でも見ているかのようなそんな気分で。
“いいことは起こった”。そう思った瞬間。
ぴぴっ。かしゃっ。
交番の前、雑踏に、そんな電子音が響いた。
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