15: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:21:35.34 ID:FCK0uUJh0
(……いや、これは完全にヤバい思考だ。ないな、うん、ない)
そろそろ暴走し始めていたので理性で押さえつけ、落ち着かせるために交番の天井を見上げる。無機質な白の天井。防音材か何かかは分からないけれど、所々穴が開いている。あれは何のためにあるのだろうか。
そんな取り留めもないことを考えていると、お巡りさんが二枚の紙ぺらを俺と、少女の方へ差し出した。
「すみません、お二人ともこちらの書類に諸々、記載いただけますでしょうか」
一枚は拾得物届け、もう一枚は遺失物届け。落とし物を見つけましたって奴と落とし物をしましたって奴。もちろん俺が書くべきなのは遺失物届けの方。
俺はボールペンを走らせる。手で文字を書くのなんて久しぶりで、幾分か字が汚くなってしまったことに若干のショックを受けつつ、十分読み取れるはずの文字を書きこんでいく。そうして俺がちょうど書類を書き終えようとしていたとき。
「これでいいですか」
「……はい、大丈夫ですよ。すみません、お手間を取らせて」
「いえ。もう、帰っても大丈夫ですか」
「はい、ご協力感謝いたします」
隣で少女が書類を書き終えたらしい。しまい込んでいた音楽プレイヤーを取り出しながらお巡りさんに紙を差し出している。俺は努めてその紙を見ないようにしつつ、一気に書類を書き上げた。
俺の脳内に去来する、“彼女と二度と会えないかもしれない”という思い。鈍痛にも似たそれがひどく俺の頭を揺らし、瞬間的な焦燥を生み出していた。
俺は極限まで勢いを抑え込みつつ、迅速にお巡りさんへと書類を差し出す。その間に彼女はスクールバッグを肩にかけて、交番を後にしようとしていた。
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