1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:10:44.45 ID:hRYw497E0
教室の窓から見える、学校前の公園の木々はもうすっかりその葉を落とし切っていた。
吹きつける冷たい風を受け、枝をしならせる様はなんだか痛々しい。
「奈緒、なにぼーっとしてんの?」
前方からの声で我に返る。
視線を窓の外から正面へと移すと、そこには怪訝そうな顔でこちらを見て、プリントを手渡してくれている友人がいた。
「ん。ああ、ごめんごめん」
「アイドル、やっぱ大変そうだね」
友人はあたしの頭を冗談めかして「えらい、えらい」と撫でてきた。
しかし、彼女なりに労わってくれていることがわからないあたしではないため、素直に撫でられてやることにする。
「全然。余裕だよ、余裕。まだまだこれからだしな」
「体、壊しちゃわないでよー? 私をアリーナライブに招待してくれる約束なんだからさー」
「あはは、うん。ありがとな」
そして、手渡されたプリントを見れば、そこには『進路希望調査』の文字が躍っていた。
「みんなの将来のことだから、よく考えて。何かわからないこととか、相談したいこととかあったら、先生に聞きに来ていいからね」
担任が真剣な顔つきで、言う。そんな大事な話をしていたのか、と上の空であった自分を恥ずかしく思う。
ここからはちゃんと聞いておかないと、と襟を正すも、残念ながら既に遅かったようで続く説明はなく、担任は「それじゃあ今日も一日、頑張ってね」と笑顔を見せた後で、職員室へと戻って行ってしまうのだった。
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:12:16.53 ID:hRYw497E0
○
進路希望調査という爆弾が投下されてから数時間が経ってもその威力は絶大で、あたしの頭の中はこの一枚の紙のことでいっぱいとなってしまっていた。
3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:14:27.05 ID:hRYw497E0
「あー、なんかしんみりさせちゃってごめん」
「いやいや、これは仕方ないよ。仕方ない。奈緒は私なんかの何倍も難しい問題に向き合ってるんだし」
4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:15:03.89 ID:hRYw497E0
○
それから、友人のおかげで少しだけ気が晴れたらしいあたしは、残る午後の授業を無事に乗り越えて、学校を後にする。
5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:17:44.88 ID:hRYw497E0
○
自宅に到着して、玄関で靴を揃え廊下を歩く。キッチンの方向からは、包丁とまな板とが当たって奏でられる軽快な音が届いていた。
今日はなんだろうか、と鼻を利かせてみたが、まだ何か特定できるほど調理は進んでいないらしい。
6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:20:17.61 ID:hRYw497E0
○
母との話の後、重々しい心持で夕飯を食べ、お風呂を済ませると、何もかもから逃げるような思いで、布団に入った。
7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:22:10.75 ID:hRYw497E0
自宅を出て、通りに目を凝らす。
そこには見慣れた車があった。
8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:24:49.84 ID:hRYw497E0
学校で進路希望調査を渡されたこと。
その記入のために悩んでいること。
9: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:26:19.37 ID:hRYw497E0
○
レッスンスタジオに到着してすぐ、更衣室でウェアへと着替え、タオルなどを手に指定されているレッスンルームに向かう。
10: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:27:28.59 ID:hRYw497E0
トレーナーさんの怒号のような指摘と、あたしたちのダンスシューズがレッスンルームの床と擦れて鳴る音だけがひたすら響く。
そんな時間を三時間余。
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