6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:20:17.61 ID:hRYw497E0
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母との話の後、重々しい心持で夕飯を食べ、お風呂を済ませると、何もかもから逃げるような思いで、布団に入った。
そうして迎えた翌日、あたしは携帯電話の着信音で目を覚ます。
時刻は午前八時、朝早くに誰だろう。
「もしもし」と受けると、電話の主はあたしを担当しているプロデューサーさんだった。
『おはよう。あと三十分もしたら着くからね』
音として耳に入ってきたそれを、回っていない寝起きの頭がゆっくりと咀嚼する。
ようやく意味を受け取れると、真っ青になった。
やってしまった。
脳内のスケジュール帳をぱらぱらとめくる。
九時半から、クリスマスイベントに向けたユニットでのレッスンがあったのだった。
大丈夫。大丈夫だ。なんとかしてみせる。
自分に言い聞かせるように胸の内で繰り返して「了解」とだけ返し、電話を切る。
着替えて、軽くメイクをして、髪を整えて、荷物を準備して、家を出る。できる。いや、やる。
クローゼットを開く。悩んでいる暇はない。大体のコートに合うような、無難でカジュアルなものを取り出して、ベッドへと投げる。
さらに、ジャージとタオルをスポーツバッグへと雑に詰め込むと、早着替えのようなスピードで先程取り出した衣類を身に着けた。
次いで、メイクとヘアセットをするべく自室を飛び出し洗面所へと駆けこむ。
どうせレッスンで汗だくになるので、こちらは最小限で問題はない。
レッスンスタジオへは車移動となるので、プロデューサーさん以外の人に見られることもない。
というか、プロデューサーさんに見られることがなければ、ノーメイクでもいいとすら思うのだけれど、などとどうでもいいことを考えている間にメイクと髪を整え終わる。
再度自室へと舞い戻り、用意したスポーツバッグを肩にかけ、財布やら携帯電話やらの必需品たちも忘れないように詰め込む。
全ての支度が完了したことをチェックして、部屋を後にする。
冷蔵庫から買い置きのスポーツドリンクを一本取り出して、寝ている母を起こさぬように控えめに、誰に宛てるわけでもない「行ってきます」を呟いて家を出た。
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