7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/06/28(金) 06:22:10.75 ID:hRYw497E0
自宅を出て、通りに目を凝らす。
そこには見慣れた車があった。
小走りで駆け寄り、助手席側から運転席に座る人物を確認する。やはりプロデューサーさんだ。
プロデューサーさんも覗き込むあたしに気が付いたようで、助手席のロックを解除してくれたので、ドアノブを引いてそのまま乗り込む。
「おはよう。早いね」
「こっちのセリフだろ、それ。三十分って言ってたのに」
「ああ、うん。ちょっと早く着いたんだよね」
「なら言ってくれたらよかったのに」
「だって電話した時、声がいつもの調子じゃなかったから。起きたばっかなのかと」
寝起きであったこと見透かされていたとは。
もしもしと了解の二言しか喋っていないのに、よく気が付くものだ。
「バレてた……?」
「あ、いや、責めてるわけじゃないよ。奈緒は時間通りに来てるわけだし」
「そうは言われても……」
「恥ずかしいものは恥ずかしい?」
にやにやとしながら、プロデューサーさんはあたしの顔を覗き込む。
「わかってんならいちいち口に出すな、っつの!」
プロデューサーさんは、あたしの全力の要求をあははー、と躱して、緩やかに車を発進させ、窓の外の景色は流れ始める。
出発からしばらく走行したあとで、プロデューサーさんが「そういえばさ」と口を開いた。
「最近はお仕事にレッスンにと忙しくなってきて、ゆっくり話す時間もスカウトしたばっかの頃よりは減っちゃったけど、何か相談ごとだとか、悩みだとか、そういうのはない?」
正面の信号が黄色を点灯し、プロデューサーさんは車を減速させる。停止線の前でぴたりと停まった上であたしの顔を見て、同じ言葉を繰り返した。
こんなことってあるのか。
それが一番に抱いた感想だった。ずばり今まさに、相談ごとだとか、悩みだとか、そういうものがあるタイミングでこんな言葉をかけられるとは思っていなかった。
プロデューサーさんは目聡いところがあるし、電話越しの一言であたしの寝起きを見分けたくらいなのだから、もしかするとあたしの悩みも察しているのかもしれない。
いや、そんなわけはないと思うけれど、とぐるぐる考えてしまう。
「奈緒?」
「えっ、あっ。あー、うん。大丈夫」
「本当に?」
「………………嘘。実は、ある」
咄嗟の返しにもたついてしまった時点で、嘘はもうつくことができない。
プロデューサーさんだって大人なのだから、悪いようにはならないだろう、と早々に諦めて全てを話すことにした。
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