221: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:02:36.48 ID:E/BVepxA0
>>210と>>211の間に13レス分抜けがありました。
順番に投稿していきます。
222:(1) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:03:07.99 ID:E/BVepxA0
それからの日々も、このみは仕事の合間を縫って、オーディション用の台本に目を通していた。
ある時は事務所の控室で、またある時は移動中の車内で。
掴んだ感覚を途切れさせることのないようにと、このみが台本に触れない日は無かった。
223:(2) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:03:35.63 ID:E/BVepxA0
ふう、と息を吐いて、このみは端に置いておいたペットボトルを拾い上げた。
喉を冷ますようにこのみが水を飲んでいると、扉の方から声がした。
このみが振り返ると、少しだけ開いた扉の間から、二人の顔がのぞいていた。
224:(3) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:04:05.02 ID:E/BVepxA0
このみは持ってきていたタオルなどを小さな手提げ鞄に纏めてから、二人のもとへ戻って来た。
部屋を出た3人は、レッスン室のそばにあるミーティングスペースに来た。
「ここの椅子、ふかふかで好きなのよね〜。」
225:(4) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:04:33.75 ID:E/BVepxA0
莉緒に続いて、このみもクッキーを手に取って、口に運んだ。
ココアのほんのりと甘い香りが広がって、疲れた体を癒してくれるような気がした。
「ん〜。美味しい!」
226:(5) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:04:59.96 ID:E/BVepxA0
莉緒がそう言うと、春香はちょっぴり照れた様子を見せた。
春香は話題を変えるように、このみに聞いた。
「このみさん。今このみさんがやっているのって、どんなお話なんですか?実は私、まだ聞いてなくって……。」
227:(6) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:05:46.44 ID:E/BVepxA0
「最初の方は、本当に鶴の恩返しと同じなんですね。」
「ええ。青年の前では、本当の自分を隠して振る舞わないといけなくて。……扉の向こうで機を織るときしか、鶴は本当の姿になれないの。」
228:(7) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:06:24.62 ID:E/BVepxA0
「……正直、本当に通用するのかは分からないけど……。出来ることは全部やってきたつもりよ。」
このみは、今までの日々を思い返すように、そう言った。
はじめは役の気持ちを掴む事もままならなかった。
229:(8) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:07:12.95 ID:E/BVepxA0
このみがふと莉緒の方を向くと、そこで莉緒と目が合った。
莉緒は、なにやらニヤニヤと微笑んでいた。
「な、なによ。莉緒ちゃん。」
230:(9) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:08:12.12 ID:E/BVepxA0
『春の嵐』。
春香がかつて主演を務めた舞台の名前だ。
この舞台は、その頃の春香が世間から注目を集めたきっかけの一つで、後のアイドルアワードの受賞にも繋がったとも言われている。
アイドル天海春香が持つ可能性を女優という新たな領域で示した、と当時評されていたのを、このみは覚えている。
231:(10) ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/11(木) 22:09:06.30 ID:E/BVepxA0
莉緒の言葉に、春香は、何かあったかな……といった様子で考え込んだ。
しかし、少し経ってから、何かを思い出したように、ゆっくり話し始めた。
「ええと、上手く言えないんですけど……。私が舞台に立ったとき、『演技って本当に人それぞれなんだ』って。……そう、感じたんです。」
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