199: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:19:11.33 ID:9DhA16vx0
胸の中にずっとしまい込んでいたものがあった。
本当はそう信じていたかった。
でも、もし違ったら。そうでなかったのなら。
……傷つくのが怖くて、ずっと見て見ぬふりをしてきたのかもしれない。
200: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:19:59.87 ID:9DhA16vx0
劇場のステージで、大切な人たちへ想いを届けようとしたはずなのに、いつだってそれよりもっと大きなものを貰っていた。
私は、自分の気持ちをいつも伝えられずにいて、受け取ってばかりだ、と。ずっと、そう思っていた。
だけど、今はもう分かる。
私がずっと伝えたかった想いは、きちんと私の大切な人たちに届いていたんだ。
201: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:20:38.26 ID:9DhA16vx0
声を詰まらせながら、このみは自問するようにそう呟いた。
ただ、このみはその答えが何であるかを既に知っていた。
知っていたから、涙が溢れて止まらなかった。
202: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:21:33.39 ID:9DhA16vx0
指で涙を拭いながら、このみはゆっくり顔を上げた。
差し出されたハンカチを受け取りながら、このみは声をもらした。
「……ごめんなさいね、プロデューサー。私……。」
203: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:22:27.11 ID:9DhA16vx0
「そ、それは……。」
彼は右手で、ぐしぐしと自分の涙を払った。
それから、彼は指先を頭に当てて小さく呼吸をした。
204: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:23:18.24 ID:9DhA16vx0
ぽたり、ぽたりと雫が落ちた。
シャツの袖口は、一つ二つと、どんどん濡れて色が変わっていく。
えぐえぐという声を漏らす彼に、このみの涙がまた頬を伝っていった。
205: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:24:16.97 ID:9DhA16vx0
彼がいくら手で拭っても、涙は止まらなかった。
このみは、自分の手の中にあった彼のハンカチを見た。
しかし、そのハンカチはもうこのみの涙で濡れてしまっていた。
このみは、横に置いてあった自分の鞄に手を差し入れて、そこから一枚のタオル地のハンカチを取り出した。
206: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:24:56.73 ID:9DhA16vx0
それから、幾ばくかの時間が過ぎた。
彼は時折、深く息を吸ってみたり、目をぎゅっと瞑ったりしていた。
しばらくしてから、彼は顔を上げ、ゆっくりした調子で言った。
207: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:25:22.73 ID:9DhA16vx0
二人が気が付けば、時計の針は21時を過ぎていた。
グラスの中の氷も、すっかり全部溶けてしまっていた。
あまり遅くなると、翌日の仕事にも響くかもしれないと、二人は帰り支度を始めることにした。
彼は台拭きを取ってきて、テーブルを拭き始めた。
208: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:26:20.70 ID:9DhA16vx0
二人分のグラスを持って、扉の横にある給湯スペースに向かった。
ところが、少しだけ歩いたところでこのみはそっと足を止めた。
少しの間が空いてから、その場で振り返って、このみは訊く。
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