203: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:22:27.11 ID:9DhA16vx0
「そ、それは……。」
彼は右手で、ぐしぐしと自分の涙を払った。
それから、彼は指先を頭に当てて小さく呼吸をした。
しばらくして、彼は震える声でゆっくりと言葉を続けた。
「……だって、あなたと……。
もし、このみさんと出会えてなかったら……。
こんなふうに誰かに自分の気持ちを伝えようって、思ったりしなかった、って。」
このみは、胸の奥がきゅうとなるのを感じて、目頭に熱が上っていくのがわかった。
思わずこのみは両手を顔に当てた。
溢れ出る涙はこのみの指先を濡らして、どんどん頬を伝い流れていく。
このみは、涙を拭くのさえ忘れてしまっていた。
ただ、胸の中の暖かさが、じんわりと体に広がっていくのを感じて、
そこから動くことができなかった。
彼は、溢れる感情に促されるように、前へと体を預けた。
脚に肘をついて体を支えるような体勢のままで、それでも零れ落ちた想いが顔を伝って流れていく。
「そう思ったら、なんだかもうっ……。」
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