5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:00:09.11 ID:LzMqkbY70
「結局断らないのなら、ただの惚気なのね」
辟易した様子でイク。
いや、違うのだ。不躾を承知で、イクを勢いよく指さし、注目を促す。
6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:01:04.83 ID:LzMqkbY70
あれにはのっぴきならない事情があったのだ。いや、情事も確かにあったのだが。
映画を観終わって、飯を喰って、さぁ帰ろうとなったとき、ハチが俺を暗がりに連れ込んで、スカートをめくってみせて……。
下着を身に着けてなかったんだもんなぁ……。
7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:02:11.75 ID:LzMqkbY70
机に突っ伏するしかない。肺腑から全ての空気が出ていきそうなくらいに深いため息。たっぷり五秒はかかったろう。
「……わかってるよ」
8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:02:57.98 ID:LzMqkbY70
だがな? ちょっと考えてみてくれよ。
まったく参ってしまったことを隠しもしない声音で、俺はイクに言う。助けを乞う。
「あいつハタチだぞ。俺は三十四だ。おっさんにあんまり自信を求められても困る。自意識過剰は若者の特権なんだ。
9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:03:28.10 ID:LzMqkbY70
「好きな気持ちに見返りを求める時点で間違ってるの。誰かに『好き』って伝えることは、それ以上の意味を持たないのね。本質的には、好きだから好きって言う、違うの?」
違わない。違わなかった。それでも、イクの言葉は、俺にとっては眩しすぎる。
10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:03:58.87 ID:LzMqkbY70
ハチは一瞬俺を見て、そしてイクの存在を気にする。それをすぐにイクも察して耳を塞いだ。眼を瞑る。何も見ない、聞かない、いないふり。
「今度いつ都合が空きますか!」
11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:04:45.59 ID:LzMqkbY70
いや、いくら抜かれたとはいえ、脅しがかけられているとはいえ、公共の福祉に反することには賛同できない。そう伝えるとハチは口を噤んだ。さすがに一線は弁えていてくれて助かった。
「ちなみに」
12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:05:36.08 ID:LzMqkbY70
こんこん。扉をノックする音。
声で応じると、小さく開いた隙間から、桃色の髪の毛が覗く。特徴的な髪飾りも。
「いま、ハチが走ってったけど、どうしたでちか?」
13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:06:13.62 ID:LzMqkbY70
「……」
「……」
14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/06/03(月) 02:08:01.11 ID:LzMqkbY70
―――――――――――
おしまい
たまにはこういう毒にも薬にもならない小噺をば。
15:名無しNIPPER[sage]
2019/06/03(月) 11:42:41.78 ID:9qQXQB6f0
乙ぅ
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