34:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:00:14.99 ID:YWfCY9A20
(ひとりぼっちなんだ……)
言い方が悪いかもしれないけれど、そういうことだろう。人も少なくシンとした教室では、話し声も何もしない。窓の外の部活動に勤しむ生徒たちの声だけがやたらと大きく響いてくる。
35:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:00:53.82 ID:YWfCY9A20
「はぁ」
本当に異世界に迷い込んでしまったんだ、という重たい現実が頭の中を埋めて、うなだれた拍子にため息がこぼれ落ちた。そこで自分の机に何かが書いてあるのに気付く。
36:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:01:38.90 ID:YWfCY9A20
カスミちゃんとサアヤの出会いは、この机に書いたメッセージのやり取りだと聞いた。なら、きっとサアヤも私と同じように、優しいカスミちゃんのメッセージに大きく助けられたことだろう。
姿は見えなくてもひとりぼっちじゃない。時間差はあるけど話し合える友達がいる。
37:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:02:20.39 ID:YWfCY9A20
3
「つまりそれは入れ替わりってことだな」
38:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:02:57.81 ID:YWfCY9A20
「えっと……じゃあつまり、私は違う世界の山吹沙綾になっちゃった、ってこと?」
「そういうこと」
39:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:03:29.52 ID:YWfCY9A20
「あーいや……その、サアヤ?」
「うん」
40:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:04:33.54 ID:YWfCY9A20
たられば。もしも生まれ変われるならどうなりたいか。その話の中で、有咲が悩める香澄のために、心を鬼にして突き放したことを聞いた。
どの世界でも有咲ちゃんは有咲ちゃんなんだ。口では色々言うけど、なんだかんだで友達想いの優しい女の子。
41:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:05:00.43 ID:YWfCY9A20
あれは七月のことだから、大体三ヵ月くらい前か。香澄ちゃんたちの初めてのライブを見て、バンドリカレーパンを作ったすぐあと。お父さんから「“お前”をもっと大切にしてほしい」と言われたこと。
そして七夕の風に撫ぜられて香澄ちゃんと出会って、本当の本当に『友達』となった時。眩いばかりに夢を追いかける彼女に憧れて、とうとう私自身の夢も撃ち抜かれたこと。
42:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:05:54.80 ID:YWfCY9A20
異世界は異世界。自分が知っている世界に似ていても、それは似ているだけであって完全に別物なんだ。
アリサに導かれた蔵で、階段を上るのではなく下って行った見慣れない部屋で、この世界のPoppin'Partyのみんなと顔を合わせてからまた自室に帰ってきた沙綾は、ベッドに腰かけながら殊更強くそのことを実感していた。
43:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:06:20.77 ID:YWfCY9A20
「…………」
そして……と、家族構成のことについてうっかり考えてしまい、沙綾は瞳に涙が滲んできて、部屋の天井を見上げる。
44:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:06:50.48 ID:YWfCY9A20
……もう二度と会えないはずだった。もうずっと、記憶の中でしか優しい笑みも温かさも声も感じることが出来なくて、その思い出も薄れていってしまうだけのはずだった。
だけど、何度頬をつねっても、目をこすっても、優しい記憶の中と変わらない姿の母がここにはあった。
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