153:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:32:36.65 ID:YWfCY9A20
「あなたのことが羨ましい。私もさ……みんなみたいに、明るい教室で授業を受けたい。もしも全日制なら……香澄ちゃんたちと一緒のクラスがいいな。それでお昼になったら、たえちゃんと合流して、学校の屋上でご飯を食べるんだ」
さあやは口を開かず、それにただ耳を傾けていた。
154:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:33:18.21 ID:YWfCY9A20
「……いいんじゃないかな」
と、そこでさあやが口を開いた。
155:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:34:06.93 ID:YWfCY9A20
「……うん、あのカスミちゃんなら絶対言うと思う」
短い期間の付き合いだったサアヤも、その姿が容易に想像できた。それから、在りし日の母にとてもよく似た、もうひとりの自分の母親に言われた言葉を思い出して、口を開く。
156:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:34:54.83 ID:YWfCY9A20
「お父さんが私の前で妙に張り切る理由が少しだけ分かったよ」
「私も、母さんがもっとわがままを言ってって言う理由がちょっと分かった」
157:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:35:24.51 ID:YWfCY9A20
他でもない自分自身の姿から放たれた言葉が自分自身の胸に刺さるということもあるけど、よくよく考えてみれば、それらの言葉は自分たちの身近な人が口を酸っぱくして放つものとほとんど同じだ。
「……私たちに対しても、そう思ってるんだろうね」
158:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:36:19.25 ID:YWfCY9A20
サアヤは思い立ったように、長椅子から腰を上げた。それからさあやに一歩、二歩と近付く。そしてなんとはなしに前へ右手を伸ばしてみると、ちょうどふたりの中間くらいに、透明の壁があった。
その見えない壁に掌をつける。少しだけ弾力のある、なんだか温かみのある感触がした。
159:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:37:00.55 ID:YWfCY9A20
「でも、やっぱりこっちの世界の沙綾はあなただよ」サアヤは囁くように言葉にする。「どんなに温かくて明るい陽だまりだって、これは私のためのものじゃない」
「そうかもしれないけど、でもさ」さあやも同じようにささめく。「偽物じゃないよ。出会った人たちも、もらった優しさも、それが私たちにとって大事なことも……全部、本当だよ。本物だよ」
160:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:38:12.67 ID:YWfCY9A20
瞳を閉じる。このおかしな、ジョーシキじゃありえない日々を脳裏に呼び起こす。
暗い校舎、さびしい教室。
161:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:39:19.25 ID:YWfCY9A20
瞳を開く。眼前には、少しだけ見慣れた山吹沙綾がいた。
「……初めまして、かな」
162:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:39:45.16 ID:YWfCY9A20
――電車の進行方向。ずっと続く線路の先には、大きな二重の虹がかかっているんだから。
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