33:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 20:59:23.36 ID:D/gZfYJM0
――しばしの沈黙の後、夕美ちゃんは、優しくニコリと笑った。
「志希ちゃん、私ね? 失踪には、二種類あると思うの」
「ふむ?」
34:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:01:49.50 ID:D/gZfYJM0
顔を真っ赤にして照れるのか、それとも、顔を真っ赤にして否定するのか。
夕美ちゃんの性格からして、たとえ違っていたとしても、否定をすることはないだろう。
でも、夕美ちゃんの返答は、あたしのいずれの予測とも違っていた。
35:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:05:07.27 ID:D/gZfYJM0
「そうかな」
ふぅっと息をつくと、彼女は目の前に高く広がる青空に負けないくらい透き通る声で笑いかけた。
「帰ろっか!」
36:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:08:10.38 ID:D/gZfYJM0
『すごいぞ、志希! お前は何という子だ』
『どんな無理難題をもいとも容易く乗り越え、新たな発見をこの世界にもたらし続ける』
37:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:09:21.17 ID:D/gZfYJM0
――――。
――初めての失踪は、4年ほど前。
38:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:12:00.74 ID:D/gZfYJM0
「志希! これはどういう事だっ!!」
あたしの後ろで、彼の怒鳴り声が聞こえた。
生返事でそれに答えるあたしも、すっかり日常のワンシーンだ。
39:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:15:34.58 ID:D/gZfYJM0
あたしは、違う。良い子なんかじゃない。
彼の――ダッドの期待の全てに答えようとしたけど、それを達成できずに逃げたあたしの本質は、謙虚なんかでは決してない。
「にゃははー! プロデューサー、じゃあこれをキミにかけてあげよ〜♪」
40:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:18:34.90 ID:D/gZfYJM0
なぜ夕美ちゃんは、あたしを謙虚と評したのか?
改めて考え直した結果、あたしは違う可能性を見出した。
いつか謙虚になってほしいという、将来に向けた願望。
あるいは、そばにあったキンモクセイから得た、深い意味を持たない思いつき、といったところか。
41:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:22:37.89 ID:D/gZfYJM0
人はレッテルを貼るのが大好きだ。
ケミカルの現場にいた時から、それは重々承知している。
人は無知を恐れる。
42:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:26:40.66 ID:D/gZfYJM0
なりゆきと気まぐれで始めたピンクのキンモクセイ作りは、思いのほか時間を要する。
それは、あたしにとってはたぶん、歓迎すべきことだった。
絵の具のようにピンクの色素を配合すればピンクになるわけではない。
計算と予測、そして――根気だ。
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