一ノ瀬志希「ほころび」
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42:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:26:40.66 ID:D/gZfYJM0
 なりゆきと気まぐれで始めたピンクのキンモクセイ作りは、思いのほか時間を要する。
 それは、あたしにとってはたぶん、歓迎すべきことだった。

 絵の具のようにピンクの色素を配合すればピンクになるわけではない。
 計算と予測、そして――根気だ。
 無いんだよねー、根気。


 夕美ちゃんはあたしを信じている。
 謙虚、だと内心は思っていないのかも知れないが――そうあってほしい、それができる良い子だと思い込んでいる。

 そう信じたいだけなのだ。

 あたしに貼り付けたレッテルが間違いであることを、彼女はきっと恐れている。

 皆、そうなんだ。
 所詮、自分の物差しでしか評価できないのだから。


 あたしは良い子なんかじゃない。そして――。

 夕美ちゃんは、良い子だ。
 だから、彼女を困らせることはしたくないけど、認識は改めてほしい。

 そして――できる限り早く、彼女にピンクのキンモクセイをプレゼントしたいなと思う。


 温暖な気候条件に調整したプラケースの中で、丁寧に配合した土壌に薬を数滴垂らす。

 生育を早めるため、細胞分裂を促進させる――つまり、寿命を縮める。
 花弁をピンクにするのと同じくらい、生物の摂理に反する行為だ。

 夕美ちゃんが知ったら、怒るかな。それとも、卒倒しちゃうかな――。



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