121:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:32:21.72 ID:SYS+AFC90
甘い匂い――キンモクセイの香りだ。
研究を進める中で、飽きるほどに散々嗅いだはずなのに、あたしのささくれだった心は不思議なほどにその温かな匂いで安らいでいく。
「あ、うぁ……」
122:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:33:25.40 ID:SYS+AFC90
――――――
――――
123:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:35:21.84 ID:SYS+AFC90
『しょうがないですよ。志希ちゃんはワガママの言わない、手のかからない子だったのでしょう?』
『うん! 志希ちゃん、この間初めて私にワガママを言ってくれたんだよっ』
124:名無しNIPPER
2019/04/29(月) 02:36:55.66 ID:SYS+AFC90
『えぇと、そ、そうやって自分の意志を他人に依存させるのは良くないと思いますっ! って志希ちゃんが言ってました!』
『なるほどなぁ、ウーム、さすが我が娘……うおっ、辛ぁ!!』
『タバスコ入りのジャスミンティーです。この子の好みかと思ったのですが……』
125:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:40:28.81 ID:SYS+AFC90
『志希ちゃん……まだ正直、私もどうしたらいいのか、よく分かってないんだ』
『でも、今のポッカリ空いた気持ちのまま続けても、誰かに迷惑をかけちゃうかも』
『なんて……他人のせいにするのはズルい、だよね? でも……』
126:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:43:04.15 ID:SYS+AFC90
――――。
寒さで目を覚ましたけれど、陽はもう昇っていた。
時間を確認しようとスマホを取り出すと、プロデューサーからの着信がたくさん表示されている。
127:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:45:50.97 ID:SYS+AFC90
もういいや、どうにでもなれ。
このまま目を閉じていれば、この悲しみも忘れられるかも知れない。
あるいは――。
128:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:47:24.06 ID:SYS+AFC90
起き上がって、そのそばに近づく。
昨日は暗くてよく見えなかったドギツい真っピンクが、小さいながらもその存在感を無遠慮に主張している。
でも、本来キンモクセイは秋の花。
129:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:51:18.86 ID:SYS+AFC90
振り返って丘の下を見ると、お爺さんが空き缶を持って立っていた。
手の中にあるのは、空になったあの缶ビールだ。
「……管理人さん?」
130:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:04:03.55 ID:SYS+AFC90
「……え」
どっこいしょ、っとお爺ちゃんは芝生の上に腰を下ろした。
131:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:05:51.67 ID:SYS+AFC90
「アイドルは、それを咲かせることができるからすごい、とあの子はよく言っていました」
立ち上がってお尻をポンポンと叩き、お爺ちゃんはあたしの方へ歩み寄ってくる。
「いつか皆を笑顔にできるその子を、私は笑顔にしてみせたいのだとも……ところで、妙ですな」
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