10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/28(日) 19:38:09.82 ID:D/gZfYJM0
ところが、今のあたしは、夕美ちゃんという比較対象を得ている。
彼女が今苦しんでいるステップも、あたしは初見でこなすことができたものだ。
トレーナーさんの表情がさほど曇っていないところを見ると、それは決して珍しい事象ではないのだろう。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/28(日) 19:40:57.78 ID:D/gZfYJM0
夕美ちゃんが事務所に来て、異変がもう一つあった。
「よいしょ、っと……」
「? 夕美ちゃん、何してんの?」
12:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:43:26.60 ID:D/gZfYJM0
夕美ちゃんに連れられていった1階のガレージは、思いのほか良いカンジの環境だ。
広いし、最低限の採光も換気扇もあるし、間仕切りを隔てた隣の部屋には簡単な水回りもある。
ただ、蛇口を捻るとドボドボと赤茶色の水が流れてきて、夕美ちゃんはビックリして飛び退いた。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:47:10.99 ID:D/gZfYJM0
プロデューサーはというと、そんな夕美ちゃんを心の底からありがたがっていた。
「ありがとう夕美……本当に助かる。俺の頭痛のタネを、こんなにも綺麗に…」
「冷蔵庫にあったPさんのビール、捨てといたからね」
「えっ!? 何で!?」
14:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:52:19.90 ID:D/gZfYJM0
あたしは、人間付き合いの経験が浅い。
気づけばあたしの回りには、権威と呼ばれるお偉い先生ばかりが集まっていた。
あたしが適当なプレゼンをすれば、彼らは何でも持て囃した。
15:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:53:55.72 ID:D/gZfYJM0
「あ……し、志希ちゃん?」
「ん?」
ふと、夕美ちゃんがあたしの顔を覗き込んだ後、ちょっと顔を伏せた。
16:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:55:43.77 ID:D/gZfYJM0
「夕美ちゃん」
「ん、何?」
服屋さんを出て、大きな袋を両手にいくつも抱える夕美ちゃんがくるりと振り返る。
中身はほとんどあたしのものだ。
17:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:57:28.09 ID:D/gZfYJM0
お腹を抱えてゲラゲラと笑う。
あたしのアイドルとしての知名度はまだそんなに無いけれど、往来のど真ん中で大声を張り上げれば、そこそこ人目にはつくものだ。
「し、志希ちゃんっ! 恥ずかしいから、もう行こう、ねっ?」
「うんうん、夕美ちゃんの行きたい所にね」
18:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 20:01:26.46 ID:D/gZfYJM0
荷物を駅のロッカーに預け、連れられた先は――。
へぇー、お花屋さんかぁ。
「ひょっとして、夕美ちゃんまたあたしに気を遣った?」
「えっ、志希ちゃんもお花好きなの?」
19:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 20:05:33.05 ID:D/gZfYJM0
「夕美ちゃんの家にも行っていい?」
「えっ? い、いいけど、どうせ帰る所一緒じゃない?」
夕美ちゃんとあたしは、マンションが同じだ。
事務所が借りている部屋が何戸かあり、主に地方から上京してきたアイドルの単身住まい用として提供されている。
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