一ノ瀬志希「ほころび」
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18:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 20:01:26.46 ID:D/gZfYJM0
 荷物を駅のロッカーに預け、連れられた先は――。
 へぇー、お花屋さんかぁ。

「ひょっとして、夕美ちゃんまたあたしに気を遣った?」
「えっ、志希ちゃんもお花好きなの?」
「んーん、でもイイ匂いがいっぱいで楽しいね。ヨリドリミドリー♪」

「良かった」
 夕美ちゃんは穏やかに笑って、屋外に並べられた苗の上に屈み込んだ。

「それは?」
「ベゴニアだね。割と年中楽しめるお花なんだけど、ほら、よく見てみて」

 彼女が指差した先に、目を凝らしてみる。

「お花の形が、左右非対称でしょ? こっちの子なんか、ハートみたいっ。
 花言葉も、『親切』とか『幸福な日々』とか、どれも明るいカンジで好きなんだー♪」

「これを買いたかったの?」
「ううん」

 夕美ちゃんは、なぜか首を振った。

「お花屋さんに来る時は、欲しいものをイメージして来ることはあまり無いの。
 そこへ行って、その時にいいなって自然に思ったものを、育てるようにしてて」

 ベゴニアの苗を一つ手にとって立ち上がり、花弁を指先で愛おしそうに撫でる。
 あたしに向けたその表情は、なぜか赤ら顔だった。

「へ、ヘンかな……?」
「んー、分かんない」
「そ、そうだよね! ごめんねヘンなこと聞いて」

 恥ずかしそうに手を振って、そのまま夕美ちゃんは、別の花を2、3コ手にして店を出た。



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