一ノ瀬志希「ほころび」
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14:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 19:52:19.90 ID:D/gZfYJM0
 あたしは、人間付き合いの経験が浅い。

 気づけばあたしの回りには、権威と呼ばれるお偉い先生ばかりが集まっていた。
 あたしが適当なプレゼンをすれば、彼らは何でも持て囃した。

 いや、煙たがっていたかな。
 彼らの鼻っ柱を折ることのないよう、適度に手加減をして論文の出来を下げることも一つの処世術だと、あたしは経験で知った。
(詰めの甘さに気づいて、真っ向から否定してくれる人はあまりいなかったけれど)

 つまり、同年代の子達との見目麗しい学生ライフとは無縁だったわけで――。

「志希ちゃん、明日一緒に映画観に行かない?」


 昼下がりの、事務所の最寄り駅のそばにあるカフェ。
 あたしの目の前に座る夕美ちゃんが急に、雑誌を開いて指を差してみせた。

「全米NO.1の純愛ラブストーリーだって! ネットでもすっごく評判なんだよっ。
 映画館の近くにお店屋さんもあるから、観終わったらそこで買い物していこうよ」

 あたしの返答を聞く前から、夕美ちゃんは自分の手帳に楽しそうに記入していく。


 当日、その映画のラブシーンで夕美ちゃんは顔に手を当てて(アレなシーンでは目も隠して)、クライマックスでは泣いてて――。

 かと思ったら、ランチのイタリアンであたしが自分のお皿に無遠慮に振ったマイタバスコにビックリして。
 よせばいいのに、「ちょっと一口」なんて手を伸ばして、案の定涙目になって水をガブガブ飲んで。

 洋服屋さんでは、あたしを着せ替え人形にして子供のようにはしゃいだ。



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