11: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:24:40.45 ID:cgXM4cARO
「ここがウィーン……」
「といっても、玄関口になる空港だけどな」
ウィーン国際空港は冷戦の際にオーストリアが中立国家を貫いていた背景もあってか東欧や中東への乗り換え客も多いそうだ。
12: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:25:13.22 ID:cgXM4cARO
爪先立ちをして待ち合わせている人を探すとご丁寧にツアーコンダクターが持つような旗をはためかせている姿が見える。
事前に貰っていた資料に掲載されている写真と見比べる。どうやらあの人が案内役らしい。
「お待ちしておりました! 水本ゆかりさんと担当のプロデューサーさんですね? 私、サンヨウツアーズの村松と言います」
13: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:27:30.27 ID:cgXM4cARO
「見てください、プロデューサーさん。馬車が走っています」
「ば、馬車? ほんとだ……」
ウィーン市街地までの風景を楽しんでいた俺たちの横を優雅に石畳を歩く二頭の白馬に引かれた馬車が通り過ぎる。
14: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:04.79 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」
ホテルに荷物を置いて一息つく。白を基調とした部屋の中は清掃が行き届いており、寝泊まりするのももったいないくらいだ。机の上置かれているウェルカムフルーツの甘い香りが心地よい。
窓の外を見ると先ほどとはまた別の馬車がパカラパカラと歩いている。目で鼻で耳で感じる東京にはない風景に、憧れのウィーンに来たんだという気持ちが強くなって行く。
15: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:40.57 ID:cgXM4cARO
「ん……」
どれくらい眠っていただろうか。重たい瞼を開けて軽く頭を振る。
「あれ?」
16: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:32:45.80 ID:cgXM4cARO
「グリュースゴット、ゆかり」
オーストリア語というものはなく、母国語はドイツ語だ。しかしグーテンタークという挨拶はあまり使わず、グリュースゴットが主流らしい。
元々はカトリック教の「汝に神のご加護がありますように」といった意味だとか。グーテンタークが通じないわけではないけども、カトリック教徒の多いオーストリアではこっちの方が一般的に使われるのだ。
17: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:33:54.74 ID:cgXM4cARO
『無事ウィーンに着いたんですね』
「ええ、お陰様で」
18: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:35:16.54 ID:cgXM4cARO
「唇にお髭ができていますよ?」
「えっ? あぁ、泡のことね」
舌で上唇についた泡を舐める。三分の一くらい飲んだ後のグラスには泡の輪が出来ていた。
19: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:28.19 ID:cgXM4cARO
「間違ってもデレぽにあげちゃダメだぞ?」
一応オーストリア自体は16歳から飲酒が可能だが、厄介なことになるのは避けるが勝ちだ。
「分かっています! 有香ちゃんたちに見せてあげようと思って」
20: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:54.11 ID:cgXM4cARO
一滴程度のビールすら受け付けなかったあの頃を思い出す。生涯分かり合えることがないだろうと思っていた苦い水が美味しいと思えるようになったのはいつの頃だったか。
多分スーツを着て慣れないネクタイを結んで社会人と呼ばれるようになったあたりだと思う。
「私も美味しく飲めるでしょうか?」
21: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:39:35.80 ID:cgXM4cARO
パカラ、パカラ。蹄を鳴らしながら白馬は街中を我が物顔で練り歩く。通常の車よりも高い目線になる馬車はビルの二階の窓くらいの高さがあり、ちょっとした王様気分が味わえていた。
「カボチャの馬車ならシンデレラだったんだけどなぁ」
オーストリアに来たのは撮影とライブのためだけど、それ以外は自由に観光する時間かある。レストランの食事を終えた俺たちはまず、ゆかりの希望でフィアカーで街中を巡ることにした。
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