【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:36:18.98 ID:khuu0cd90
冬の終わりの冷たい雨の中、私は彼女に出会った。
黒い髪からポタポタと雨をしたたらせながら、彼女は坂道を上っていく。傘はさしていなかった。それでいて急ぐ様子もない。濡れることなど意に介さぬかのように、彼女はゆっくりと歩を進めていた。
私は思わず息をのんだ。水中を悠然と歩く彼女のうしろ姿が、私に雨を忘れさせる。彼女はまるで、世の憂いを断ち切らんとする聖者のようで、神々しい何かのように見えた。
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AAS
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:39:10.15 ID:khuu0cd90
だけど、どうやらそれは勘違いだったらしい。風が吹き、彼女は肩を震わせた。肩を抑えた彼女の指は、赤く腫れあがっている。
風上を見つめる彼女の横顔が、思い出したかのように苦痛でゆがんだ。
それで気がつけば、私は走り出していた。
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:41:29.52 ID:khuu0cd90
駅まで彼女に同行することにした。建前上は「私も行くところだったんです」と言って。駅に行く用事はない。だけども、彼女を放っておくのはためらわれた。
傘を持つ彼女の指を見る。指のところどころが、わずかに赤く変色していた。しかし、駆け寄る前に見た時ほどではない。おそらく気が動転していたのだろう。遠くから見えた指先は、必要以上に痛々しく見えてしまった。
そもそも、数メートル以上の距離から、指先の色など正確に見えるはずがないのだ。自分の悲観的なタチに嫌気がさす。とはいえ、実際の指の容態だって、無視できるほど軽微に思えなかった。
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:42:25.05 ID:khuu0cd90
どこか虚ろな距離感に変化が生じたのは、賑やかな繁華街に足を踏み入れてからだった。
きっかけは些細な注意。
「そこ、水たまりがあります」
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:43:44.12 ID:khuu0cd90
「……いいですね、あれ」
そんな言葉が口をついた。
「ふゆも、そう思います」
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:44:34.08 ID:khuu0cd90
「……でも、ふゆは、アイドルも虚像なんじゃないかと期待しちゃうんです」
虚像、彼女はそう言った。それは一体どういう意味を持った言葉だったか。それを脳内から引っ張り出す前に、私の口は勝手に動き出していた。それよりも、もっと気になる言葉があったのだ。
「期待、ですか」
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8
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:45:23.61 ID:khuu0cd90
絶句した。今度は、言いたいことがあるのに言えない、のではない。正真正銘、私は口にすべき言葉を失っていた。
「その眼鏡、度が入ってませんよね。この距離なら、ふゆでもわかりますよ。ファッションにも見えないので変装用の眼鏡です。メガネさんは高校生だと言っていましたから、変装が必要な高校生となると……」
彼女は楽しげに言う。もう楽しげに言えている。糾弾するような響きは一切ない。謎解きゲームで遊んでいるかのように、その相手である私を楽しませようと努めていた。
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9
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:46:15.37 ID:khuu0cd90
虚像とアイドルと、どんな時も泳ぎ続ける魚。そこに何となく、アスファルトに擬態した水たまりを混ぜ込んだところで、その四つのワードが私に一つの仮説を与えた。
……つまり、虚像のアイドルは、虚像のままで泳ぎ続けないといけないと。一度キャラクターを作ってしまえば、寝ても覚めても、そのキャラクターから逃れることはできないと。彼女は、そう言いたいのかもしれない。
でも、それは……
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:47:13.21 ID:khuu0cd90
人で最も賑わっていた繁華街の中心地。そこから徒歩で五分くらいの、値段が手ごろな飲食店がひしめく大通り。私が立っているその場所は、地理的な意味でも岐路だった。
大通りをこのまま真っ直ぐ進めば、ビル街を経由して、十分程度で駅に着ける。対して、大通りを外れて路地を行けば、そこから三分ほどの時間を短縮することが可能だった。
私は、迷わず路地に入る。
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◆/rHuADhITI
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2019/04/07(日) 17:48:47.76 ID:khuu0cd90
「そんな、大丈夫ですよ。ぜーんぜん痛くありませんから」
手を二回ほど開閉させてから、やはり彼女は笑みを浮かべた。気がついてしまえば、ぎこちない笑顔。
それは、やんわりとした、ある種の『拒絶』だ。あらゆるものを拒絶しているわけではない。ただ、自身の本質に立ち入ろうとするものを排除しようとする笑みだった。
以下略
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