【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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4: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:41:29.52 ID:khuu0cd90
 駅まで彼女に同行することにした。建前上は「私も行くところだったんです」と言って。駅に行く用事はない。だけども、彼女を放っておくのはためらわれた。

 傘を持つ彼女の指を見る。指のところどころが、わずかに赤く変色していた。しかし、駆け寄る前に見た時ほどではない。おそらく気が動転していたのだろう。遠くから見えた指先は、必要以上に痛々しく見えてしまった。

 そもそも、数メートル以上の距離から、指先の色など正確に見えるはずがないのだ。自分の悲観的なタチに嫌気がさす。とはいえ、実際の指の容態だって、無視できるほど軽微に思えなかった。

「あの、どうかしましたか?」

 会話の最中に押し黙った私を、彼女がのぞき込んだ。不安を与えないためなのか、ニコニコと笑っている。私は慌てて言葉をつないだ。

「あ……すみません、ふゆさん。その……それで、体育の授業の途中にですね……」

 私は彼女を『ふゆさん』と呼んでいた。『ふゆ』と呼ぶように言われたが、呼び捨てはこそばゆいので『さん』だけはくっつけさせてもらっている。

 対して、彼女は私を『メガネさん』と呼ぶ。私のかけている眼鏡を「可愛らしいですね」と気に入り、以降はそのあだ名で呼んでいた。

 眼鏡を誉められたのは初めての経験だった。それはある意味当たり前の話で、種を明かすと、眼鏡をかけはじめたのは最近のことだからだ。それも変装用の伊達メガネ。めぐるが戯れに買ってきたものを、私はここ数日、やはり戯れに装着している。

「なるほど、メガネさんは高校生の方なんですね」

 さきほどから、当たり障りのない話が細々と続いていた。本名を名乗り合う雰囲気ではない。私は名乗るタイミングが掴めず、そもそも彼女にはそういう気が無いようで。会話の内容は、ますます散発的になっていた。

 指のことも聞き出せないでいる。彼女はたおやかな笑いを、維持し続けている。その笑顔のせいで、私は一歩を踏み込めずにいるのだ。

 同じの傘の下、肩が触れあうような近さにいるのに、まるで間に分厚い壁が差し挟まれているようだった。



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