【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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5: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:42:25.05 ID:khuu0cd90
 どこか虚ろな距離感に変化が生じたのは、賑やかな繁華街に足を踏み入れてからだった。

 きっかけは些細な注意。

「そこ、水たまりがあります」

 横断歩道を渡りはじめるその時、車止めの陰にある水たまりを彼女は指摘した。進行方向にあった濁った障害物を、私は寸前のところで回避する。

 黒く澱んだ水はアスファルトに擬態していた。それも注意深く見なければ、まず気づけないほど巧妙に。その上、物陰に潜んでいたのでは手に負えない。それをひと目で看破した彼女の注意力に、私は舌を巻いた。

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

 礼を言う。

「うん……」

 返ってきたのは空返事だった。彼女はあさっての方向を、感情のない表情で見ている。だが、私の視線に気づくとすぐに、あの親しみ深い笑顔に戻った。

「はいっ。メガネさんが濡れなくて良かったです」

 語尾にハートマークでも付きそうなほどに甘い声。空いている左手で小さくガッツポーズを作る、愛想のいい仕草。好感が持てるはずのそれらから目を背けたくて、私はさっきまで彼女が見ていた『あさっての方向』に目をやった。

 そこには月岡恋鐘がいた。

『夢見る髪に』『魔法のような、恋の香りを』『マジーア・アンティーカ』

 正確に言えば、ビルのディスプレイ広告の中に恋鐘さんはいた。頭上から耳馴染んだ声で宣伝文句が聞こえてくる。ヘアフレグランスのCMだった。

 アンティーカの皆さんが、そういう仕事を受けたという話は聞いている。だけど、実物を目にするのは初めてだった。会心の出来だとプロデューサーが言っていたが、どうやらそれも本当らしい。



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