【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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3: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:39:10.15 ID:khuu0cd90
 だけど、どうやらそれは勘違いだったらしい。風が吹き、彼女は肩を震わせた。肩を抑えた彼女の指は、赤く腫れあがっている。

 風上を見つめる彼女の横顔が、思い出したかのように苦痛でゆがんだ。

 それで気がつけば、私は走り出していた。

「あ、あの……! えっと……!」
 
 駆け寄って傘をさしだす。「傘を忘れたんですか」とも「大丈夫ですか」とも聞けなかった。焦っていた上に、あまり人との会話に慣れていない私では、最適な言葉の判別がつかなかったのだ。

 アイドルをはじめて一年弱になるというのに、未だにコミュニケーションは苦手に感じてしまう。真乃やめぐるなら、もう少し上手にできたのだろうか。

 そんな小さな後悔をよそに、彼女はさしだされた傘の下から私を見つめていた。大きめの白マスクをつけているせいで、細かな表情はうかがい知れない。
 
 ただ、その他の要素。長く切りそろえられた黒髪。透き通った明るいブラウンの瞳。清楚さを感じさせるピンクのブラウス。外見からは、品のよい年上の女性、という印象を受けた。

「……その、ありがとうございます!」
 
 彼女がよどみない動作でマスクを取る。その下から現れたのは控えめではあるが、たしかに人懐っこい笑顔。

「傘、途中で忘れちゃったみたいで。ふゆったら本当にドジですよねっ」

 『ふゆ』と名乗った彼女はそう言って、こつんと自分の頭をこづいた。その間も一貫して笑顔は崩さない。彼女に対する印象に、親しみやすさを兼ね備えた女性、という言葉が追加される。とても、吸い込まれるような笑顔だった。

 だけど何故だろう。私の心はざわついたままだ。彼女のまとう空気は私を和ませてくれているのに、同じ人物が持つ笑顔だけが、不思議と私の心をかき乱していた。



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