「おはよう。捻挫少年。」
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1: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 16:13:38.96 ID:Av4Jk77s0
小雪舞う並木道、白い息が出ては消えていく。
所々にある電灯が足元の雪を照らして、白く染まった毛糸玉が浮かんでいるように見える。

やるせない気持ちのまま、音もない真夜中の大学を歩いている。
こんな気持ちなんてすぐに消してしまいたい。

大学図書館へと辿り着いた。
西洋風の建物の前の広場は、昨日の夕方から降った雪に覆われており、
まだ誰の足跡もついていないその場所はまるで小さいステージのようだった。




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2: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 16:16:39.20 ID:Av4Jk77s0


電車から降りて、捻挫した右足をかばいながら家へと向かっていた。
もう既に日は傾いており、閑散とした大学を通って家へと帰る。
「大会は諦めます。」
以下略 AAS



3: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 16:19:55.66 ID:Av4Jk77s0

この地域には珍しく、足元はうっすら雪が積もっており、
慣れない雪の感覚と痛む右足首を見て、
病院で意地をはって松葉杖はいらないと言ったことを後悔し始めていた。

以下略 AAS



4: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 16:22:26.15 ID:Av4Jk77s0

駅までは大学を抜けた方が早いため、毎日構内を歩いているが、
朝練と午後練が終わった後の時間帯は殆ど大学生はいない。
冬の寂しい構内で足を引きずっていると余計寒く、痛む気がする。



5: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:06:29.33 ID:Av4Jk77s0

「だれかいないかなぁ。」

自力で帰るのを諦めて誰か呼ぼうかとベンチに腰掛けて一休みする。
特に友達のあてもなく、途方に暮れてただ携帯をいじっている。
以下略 AAS



6: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:08:24.90 ID:Av4Jk77s0

しばらく携帯をいじっていると、ふと目線の端でちらちらと何かが揺れた。
目線を上げると、遠くの方で白い何かが揺れている。

よく見ると紺のコートを羽織り、ジーパン、ブーツを履いた女性が、
以下略 AAS



7: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:10:48.64 ID:Av4Jk77s0

ある程度近づいたところではっとし、携帯に目線を落とす。
少し見過ぎたかもしれない。
自分の中で妙な緊張感が漂い、さも全く見ていなかったと言うように、
携帯の画面をスライドする作業を繰り返す。
以下略 AAS



8: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:13:50.63 ID:Av4Jk77s0

しかし、祈りは全く実を結ばず、むしろ、仇を成したように、
最悪のタイミングで女性は派手にこけた。

僕の目の前で尻餅をついて、かばんの中身がこぼれ出る。
以下略 AAS



9: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:17:12.28 ID:Av4Jk77s0

「あの、大丈夫ですか?これ落ちましたけど…」
「あっ、はい!大丈夫です!ありがとうございます!」

慌てて荷物を拾って、一歩こちらに踏み出した瞬間、また滑ってこけそうになった。
以下略 AAS



10: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:21:38.83 ID:Av4Jk77s0

「ああ、はい。なんとか。」
なんともない風を装って、差し伸べられた手にも頼らず、
何とか自力で立ち上がろうとしていたが、雪と痛みで思うように立てない。
もたもたしていると、女性はすっと僕の左脇に入り
以下略 AAS



11: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/10(木) 23:23:42.81 ID:Av4Jk77s0

女性は何度も謝った後、耳を真っ赤にしながらニット帽を目深にかぶって
逃げるように駅方面へ歩いていった。
あの人またこけるんじゃねぇか、と心配しながら後ろ姿を見つめる。
無事転ぶこともなく姿が見えなくなるのを確認してから、
以下略 AAS



12: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:01:09.44 ID:piIM8FBL0


「これどうしようかなぁ…」

大学図書館の前で、拾った携帯をふらふらさせながらつぶやく。
以下略 AAS



13: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:02:01.42 ID:piIM8FBL0

捻挫した後、親と部活仲間の反対を受けたが、受験勉強を言い訳にして
強引に部活を辞めた。

顧問は止める素振りはみせたものの、勉強を始めたいことを伝えると
以下略 AAS



14: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:03:27.49 ID:piIM8FBL0

家の近所にある大学図書館はかなり昔に建てられたもので、
詳しくは分からないが西洋の建築様式である。

2階構造で、1階が軽食をとれるような休憩室とトイレが設置されており、
以下略 AAS



15: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:06:43.01 ID:piIM8FBL0

午前中は特設コーナーにあった科学雑誌と持ってきた小説を流し読みをして過ごした。
そして、昼食の菓子パンを食べたあと、図書館の前で携帯の所在を案じていないか案じている。

警察に拾得物として届けた方が良いかもしれないが、正直面倒だ。
以下略 AAS



16: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:10:41.91 ID:piIM8FBL0


雑誌と小説には飽きたので、捻挫の疼痛を和らげる方法がないか調べるため
分かり易そうな対症療法の本を何冊か探しに行った。

以下略 AAS



17: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:12:01.31 ID:piIM8FBL0

「あっ、こけた人」

考える前に言葉が出てしまい、女性が少し怪訝な顔をして顔を上げる。
少しこっちをみてからはっとした顔になる。
以下略 AAS



18: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:13:12.60 ID:piIM8FBL0

「あの、これ、あの時落ちていた携帯なんですけど」
「それ私のです!携帯も拾ってもらってたんですね。助かりました。
少し不便していたんです。…すみません、なんか私ばっかり色々拾ってもらっちゃって…。」
「…あの、今年はもう受験勉強を始めなきゃダメな年でしたし、あんまり期待されてなかったので、別に良いんです。
以下略 AAS



19: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:14:55.88 ID:piIM8FBL0




彼女の名前は佐藤あゆみ。27歳。この大学のOGで、現在は隣町で医療関係の会社で働いているらしい。
以下略 AAS



20: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:15:39.17 ID:piIM8FBL0

「こんにちは、佐藤です。来週はとりあえず最近のテストと成績表持ってきて下さい。」
家に帰った後にメッセージが来た。本気で勉強をするつもりらしい。

「こんにちは。あの、本当に大丈夫ですか?お仕事もあると思いますし、無理にとは言わないので。捻挫も大したことないですから。」
以下略 AAS



21: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 11:16:53.95 ID:piIM8FBL0


「こんにちは。今日からよろしくね。」
大学図書館1階、階段の前の踊り場でコートを腕にかけて、彼女は待っていた。
「よろしくお願いします。」
以下略 AAS



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