2: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:48:32.98 ID:/ibNvBIF0
「やあ」
青年は微笑んで口を開いた。
まるで昔馴染みの友人に話しかけるかのような、明るい声色だ。
3: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:49:03.24 ID:/ibNvBIF0
「君の名前は」
「好きに呼んでいいよ。僕は特定の名前をもっていない。かつてはあったような気がしたが、忘れてしまったよ」
青年は肩を竦めて笑った。胡散臭い雰囲気の持ち主だが、不思議と悪い印象はない。
4: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:49:47.44 ID:/ibNvBIF0
それは、何処かで聞いたことのある響きだった。
思い出されたのは、気まぐれに受けた教養科目の授業の風景だ。
教養科目の単位は既に足りていたが、仲の良かった誰かがラテン語の授業を受けたいと言っていて、自分も興味を惹かれたので受講していた。
5: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:50:44.76 ID:/ibNvBIF0
「僕は君の行く末を見届けることを楽しみにしているんだ。さあ、選びなよ。君は、まずどの窓へと進むのかな」
窓、いくつもの、窓。そのほとんどに見覚えがあるような気がしたけれど、全く見たことがないものもある。
ここが俺の心象世界だというのなら、何故俺の心には到底存在していなさそうなものがあるのだろう。
6: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:51:21.51 ID:/ibNvBIF0
青い空、白い雲、緑の草原。小さな丘陵。Windows XPのデスクトップ背景を彷彿とさせる風景だ。
XPを使っていた期間が長かったからだろうか。
使うOSがVista、7、8、10と代替わりしていっても、Windowsと聞くと、俺は草原を連想する。
7: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:51:56.69 ID:/ibNvBIF0
Windows XPを起動する度、この丘の向こうにはどんな風景が広がっているのだろうと、見えない先に思いを馳せたものだった。
ここはBlissそのものではないが、よく似ている。
丘の向こう側を見たい一心で、俺は進んだ。
8: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:53:30.31 ID:/ibNvBIF0
『探しているファイルがあるの。何処に保存したのかわからなくなっちゃって』
女の子の声が、頭の中に響いた。
同時に、ぼやけた映像が流れ始める。
9: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:54:11.88 ID:/ibNvBIF0
遠い過去の記憶だ。まだ、XPを使っていた頃の。
そうだ。俺は、この崖に潜って探さなければならないものがある。
階層を降り、全ての道を探索し、どれだけ時間がかかったとしても。
10: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:54:44.39 ID:/ibNvBIF0
ツタは充分な太さと硬さがある。。
これは決して千切れない。何故か、確信があった。
「『夢覚』だよ。夢を見ている時、その後の展開が何故かわかったり、現実とは違う常識がいつの間にか思考に定着していたりすることがあるだろう?」
11: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:55:20.97 ID:/ibNvBIF0
洞窟の構造がなんとなくわかった。これも「夢覚」とかいうやつだろうか。
左手の道を進めば、写真がたくさん飾られた場所へ出る。
中央の道は動画の保管庫で、その次は文章を記したノート置き場。
一番右は気に入った音楽をいつでも聞ける空間だ。
12: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/12(月) 20:56:00.09 ID:/ibNvBIF0
女の子がクラッカーを鳴らした。顔の部分はぼやけていて見えない。
だが、さっきの女の子の声と同じ声色だった。
テーブルの上には、誕生ケーキや、何品もの料理が並べられている。
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