48: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:25:16.11 ID:sFL9uHdg0
プロデューサーさんは、相変わらず負傷が絶えない。
他のアイドルや社員の人たちともお話をするようになって、ちょっとした噂話を耳にした。
それによると、私の担当プロデューサーさんは中堅と呼べるくらいにはキャリアがあって、本当なら新人ひとりにかかりきりになっているような立場ではないそうだ。
ならばなぜ、私の専属になっているのかというと、
49: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:26:22.62 ID:sFL9uHdg0
桜舞姫……さくらまいひめ……
少し考えて思い出す。桜舞姫は周子さんと志希さん、それに相葉夕美さんの3人ユニットだ。
346プロではよくある期間限定のユニットで、継続的な活動はしていない。だけどメンバーひとりひとりが単独でも十分お客さんを呼べるくらいに人気があって、再度ユニットとしての活動を望む声も多い、と聞いたことがある。
「詳しく、聞かせてもらえますか?」
50: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:27:51.88 ID:sFL9uHdg0
*
翌日、私は臨時のオーディション会場となるレッスン室にやってきた。部屋の前の通路に、緊張した様子のアイドルたちがレッスン着姿でたむろしている。
社内オーディションは、いちどに3人ずつ入室して審査を行うという形で行われるらしい。審査員は志希さん、夕美さんに、それぞれの担当プロデューサー、それに周子さんのプロデューサーを加えた5人だ。
入り口のドアに1枚の紙が張ってある。審査の順番が書かれたもののようだった。
51: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:28:51.92 ID:sFL9uHdg0
「……出番までの時間潰しといってはなんだけど、他愛のない戯言を聞いてもらっても構わないかな?」
飛鳥さんが言った。
「なんでしょう?」
52: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:30:41.39 ID:sFL9uHdg0
審査を終えた3人が部屋から出てきて、新たに3人が部屋に入る。何度かそれを繰り返し、やがて私たちの順番をむかえる。
3人でレッスン室に足を踏み入れ、最後に入った私が部屋のドアを閉めた。
壁際に、普段はレッスン室にはない長机が置かれており、審査員となる5人が椅子に腰掛けていた。
夕美さんがこちらに向けて小さく手を振る。その肩に、志希さんが電車の中で居眠りをする人みたいに頭を預けている。
53: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:32:23.39 ID:sFL9uHdg0
「ボクの番だね」
着席する蘭子さんと入れ替わりに飛鳥さんが立ち上がる。一瞬、ちらりと私を見たような気がした。そして、レッスン着のポケットから青い扇子を取り出し、ぱしんと音をたてて開いた。
イントロが流れ出し、私はあっけにとられた。順番を間違えているのではないかと思った。スピーカーから流れ出したその曲が、私が指定した周子さんの『青の一番星』だったからだ。
54: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:33:41.54 ID:sFL9uHdg0
席を立ち、足を進めながら考える。
飛鳥さんのアレンジは、即興でできるクオリティじゃなかった。かといって、前々から準備していたとも思えない。社内オーディションの話はみんな昨日知らされたばかりなのだから。
つまり、話を聞かされてから、一晩で身に着けたということだ。このオーディションのために。それは勝つための努力、勝つための工夫だ。
蘭子さんも飛鳥さんも、油断や慢心はしていない。それぞれが自分にできる限りのことをして勝ちに行っている。
55: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:34:37.09 ID:sFL9uHdg0
「しかしキミは、なかなか渋い扇子を持ってるね」
部屋を出たところで、飛鳥さんが言った。
「いえ、これは借り物で……」
56: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:35:24.23 ID:sFL9uHdg0
*
社内オーディションの次の日、「合格した」とプロデューサーさんが言った。
「私が……?」
57: ◆ikbHUwR.fw[sage]
2018/05/16(水) 19:36:10.07 ID:sFL9uHdg0
(本日はここまでです)
58:名無しNIPPER[sage]
2018/05/16(水) 20:56:51.09 ID:yCguXzRfo
面白い、続き気になる
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