56: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:35:24.23 ID:sFL9uHdg0
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社内オーディションの次の日、「合格した」とプロデューサーさんが言った。
「私が……?」
「もちろん、もっと喜べ」
「あ、あの……プロダクションの財務状況はだいじょうぶですか? 朝来たら玄関に張り紙がされて連絡とれなくなったりしませんか?」
「なにを言ってるんだ?」
「いえ、すみません。動揺してしまって」
合格したということは、お客さん5000人のライブに出られるということだ。
私が? 本当に?
急に現実感が湧いてきて、心臓がばくばくした。
じんわりと汗をかき、あわててハンカチを取り出してぬぐう。
その際に、バッグの底に昨日から入れっぱなしにしていた扇子があるのを見つけた。
「これ、昨日返すの忘れてました。すみません」
「ああ、それは返さなくていい。もともとあげるつもりで買ったから」
「そうなんですか?」
「買ったはいいけど、若い女の子がそんな和風バリバリの扇子なんかもらっても喜ばんだろうと思って、ずっと机の引き出しに放り込んでた」
和風好きなんだけどな、と思いながら扇子を開き、ぱたぱたとプロデューサーさんに風を送る。
「ありがとうございます。いつ買ったんですか?」
「たしか1月末ぐらいだったかな? 俺はいちども使ってないから、新品みたいなもんだよ」
あれ? と私は首をかしげた。
それはプロデューサーさんの記憶違いだと思う。
だって今年の1月には、まだ私はスカウトされていない。
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