白菊ほたる『災いの子』
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53: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:32:23.39 ID:sFL9uHdg0
「ボクの番だね」

 着席する蘭子さんと入れ替わりに飛鳥さんが立ち上がる。一瞬、ちらりと私を見たような気がした。そして、レッスン着のポケットから青い扇子を取り出し、ぱしんと音をたてて開いた。

 イントロが流れ出し、私はあっけにとられた。順番を間違えているのではないかと思った。スピーカーから流れ出したその曲が、私が指定した周子さんの『青の一番星』だったからだ。
 周子さんの代役とはいっても、実際のライブでのセットリストは未定だ。もしも選ばれたアイドルが自分の持ち歌を持っているのなら、当然それを含んだ構成をするだろう。
 プロデューサーさんは、すでにCDデビューを済ませているアイドルは自分の曲を、そうでないアイドルは周子さんの曲を選択するだろうと予想していた。だけど飛鳥さんはそうしなかった。これは、どう見るべきなのだろう?

 飛鳥さんの披露したそれは、周子さんのオリジナルのものとはだいぶ違った。音源は同じでも、歌い方や踊り方で飛鳥さんらしいものにアレンジされている。

 順番を恨めしく思う。私は飛鳥さんと同じ曲を続けて披露することになってしまった。それも、私はアレンジなんてしていない、印象としては不利になるかもしれない。

「ありがとうございました。次の方」

 拍手に包まれて戻ってきた飛鳥さんが、私の前で足を止め、

「もしかして、使うかな?」

 と、青い扇子をひかえめに差し出してきた。
 私は首を横に振り、自分の扇子をポケットから取り出して見せた。

「ありますので」

 これはプロデューサーさんの私物らしい。オーディションの少し前に、思い立って「このあたりに扇子って売ってるところありませんか?」と訊いてみると、「あるよ」と言ってこれを渡してきた。扇子ってそんな誰でも持っているものなのかと、少しびっくりした。

 飛鳥さんが小さくうなずいて着席する。
 審査員席の5人が、特に感慨をいだいた様子もなく眺めていた。
 おそらく青の一番星はこのオーディションで最も多く選択されている曲だ。ならば、小道具として扇子を持参したアイドルも少なくはなく、先ほどのような貸し借りのやりとりも、もう何度も行われていたのかもしれない。


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