白菊ほたる『災いの子』
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52: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:30:41.39 ID:sFL9uHdg0
 審査を終えた3人が部屋から出てきて、新たに3人が部屋に入る。何度かそれを繰り返し、やがて私たちの順番をむかえる。
 3人でレッスン室に足を踏み入れ、最後に入った私が部屋のドアを閉めた。

 壁際に、普段はレッスン室にはない長机が置かれており、審査員となる5人が椅子に腰掛けていた。
 夕美さんがこちらに向けて小さく手を振る。その肩に、志希さんが電車の中で居眠りをする人みたいに頭を預けている。
 入り口のかたわらに、椅子が3脚並べられていた。座ってしまっていいものかと少し悩む。

「内輪のことですから堅苦しいのは抜きにして、入って来た順で1曲ずつお願いします」

 審査員席のひとりが代表するように言った。たしか周子さんの担当プロデューサーだ。

「他のふたりはどうぞ座っていて」

 入室したのは、蘭子さん、飛鳥さん、私の順だった。
 私と飛鳥さんが椅子に腰を下ろし、蘭子さんがつかつかと部屋の中央に歩を進める。

「創世のホルンは?」

「特になしで。準備がいいようならすぐにでも音楽を流します。好きなように入ってください」

 蘭子さんがこくりとうなずく。

「血が滾るわ」

 曲が流れ出し、蘭子さんが歌い踊り始める。すでにCD販売もされている自分の曲ということもあってか、さすがに手慣れている。声の響きも体の動きも自信に満ち溢れていて、ほんのわずかの迷いも感じられない。

 審査で披露する曲は、エントリーの際に指定したものだ。特に制限はなく、どんな曲を選んでもよかった。

 ほんの少し、うらやましいと思ってしまう。
 蘭子さんも飛鳥さんも自分の曲がある。私にはない。しかし、これを不利だと思うのはわがままだろう。持ち歌という手札があることも実力のうちだ。アイドルの活動でそれだけの実績を残してきた証拠なのだから。

 曲が終わる。蘭子さんは音楽が途切れた瞬間の姿勢のまま数秒間静止し、審査員席に向けて優雅に一礼した。ミスらしいミスは見当たらない、完璧なパフォーマンスだった。
 いくつもの感嘆のため息が重なり、次いでぱちぱちと拍手の音が上がった。私も、半ば無意識のうちに手を叩いていた。

「ありがとうございました。次の方」

 と周子さんのプロデューサーさんが言った。


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