10:1[saga]
2018/03/20(火) 21:14:55.80 ID:NiGcwUvh0
8.
他愛もない話。どこにでもある日常。
そんな当たり前を、私たちは人の目を逃れて楽しんでいた。
11:1[saga]
2018/03/20(火) 21:19:02.70 ID:NiGcwUvh0
9.
「正直な話、上手く弾けてるとは、自分では思ってます。でもよく言われるんです。お前の演奏はつまらないって」
ドの音にはドの音、レの音にはレの音。じゃあ私の感情には、何の音を出せばいいのだろう。
12:1[saga]
2018/03/20(火) 21:20:11.05 ID:NiGcwUvh0
10.
「ピアノは弾かないよ」
唯先輩はピアノの前に座り、鍵盤を撫でた。謝るように、私に背を向けるように。
13:1[saga]
2018/03/20(火) 21:23:12.45 ID:NiGcwUvh0
11.夕方
「梓ー! お風呂入っちゃいなさいよー!」
「……もうちょっとで行くー」
14:1[saga]
2018/03/20(火) 21:24:28.49 ID:NiGcwUvh0
12.past 憂side
お姉ちゃんがピアノを初めて弾いたのは、4歳の誕生日。お母さんがおもちゃ屋さんで買ってきた、小さなキーボードだった。
お姉ちゃんはそれからキーボードにのめり込んで、ピアノ教室に通うようになるほどにまで熱中していた。
15:1[saga]
2018/03/20(火) 21:27:07.23 ID:NiGcwUvh0
13.梓side 3日後 昼休み
「あの、平沢憂さん、だよね」
私は決心して話しかける。同じクラスにいた平沢という苗字。調べてみると、唯先輩の妹だということがわかった。
16:1[saga]
2018/03/20(火) 21:27:51.96 ID:NiGcwUvh0
14.
「私とお姉ちゃんはね、もともと小中高一貫の、有名な音楽大学の附属校に通ってたの。私もお姉ちゃんもピアノをやってたから。でも小学校を卒業するとき、お姉ちゃんのいじめが原因で転校することにしたんだ。私も一年遅れて、小学校卒業からお姉ちゃんが通ってるこの中学校に進学したの」
よく考えればあり得る話だ。その学校の中でも、唯先輩は飛び抜けていただろう。周囲からは疎まれるかは分からないが、少なくとも浮いていく。唯先輩は子どもっぽいから尚更、同級生は劣等感を感じたのだろう。
17:1[saga]
2018/03/20(火) 21:28:25.22 ID:NiGcwUvh0
15.
「お姉ちゃんは、とっても寂しい思いをしてると思うの。私はお姉ちゃんのことを1番近くで見てきたから、苦しんでる姿も1番見てきた。でもね、」
今までごちゃまぜな感情で強く拳を握っていた平沢さんが、優しく私の手を握った。
18:1[saga]
2018/03/20(火) 21:32:00.58 ID:NiGcwUvh0
16.
ーー私、唯先輩に、もう一度ピアノを弾いて欲しいんだ。
唯先輩もきっと、それを望んでいる。唯先輩はずっと音楽室に、ピアノのそばにいたのだ。
19:1[saga]
2018/03/20(火) 21:34:49.69 ID:NiGcwUvh0
17.憂side 放課後
校舎の中に自動販売機はなかったから、私は校舎のすぐそばのコンビニに寄ってから音楽室に向かった。手に持つのはお姉ちゃんが大好きないちご牛乳と、コーヒー牛乳。梓ちゃん、気に入ってくれるかな。
音楽室の窓からこっそりと中を覗く。2人は私が図書館でもらってきたコンクールの資料を床に座って眺めていた。
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