13:1[saga]
2018/03/20(火) 21:23:12.45 ID:NiGcwUvh0
11.夕方
「梓ー! お風呂入っちゃいなさいよー!」
「……もうちょっとで行くー」
私はソファの上で、ギターを持ちながらぼーっとしていた。お母さんが夕ご飯を作る後ろ姿を眺め、何となく話しかけた。
「ねえお母さん、平沢唯って覚えてる?」
「ん?」
お母さんは一度手を止めて、また動き出した。
「もちろん覚えてるよ。ピアノの子でしょ? それがどうかしたの?」
「あのね、その人……唯先輩が、うちの中学にいたの」
お母さんは後ろを向きながらも、私にはとても驚いているように見えた。
「仲良くなったの?」
「え、うん。ダメだった?」
「ダメなわけないでしょ、よかったじゃん。梓、昔その子の演奏聞いてから、あなたすごく変わったのよ」
やっぱりそう見えたのかな。それまでギターを教えてくれたお父さんやお母さんが教えてくれなかったことを、一度の演奏で叩き込まれたのだ。
「『自由の女神』だとか『原曲ブレイカー』だとか『進化した二代目』だとか変な名前をいっぱい持ってる子だったね。実際演奏はすごかったよ」
全国ピアノコンクールで最年少優勝、海外のテレビ番組に出演してから一時期海外オファーが殺到した、何て話は有名で。でも私はそんな話には興味はない。
「お母さんは、何で唯先輩がピアノ辞めちゃったか、知ってる……?」
お母さんは言い辛そうに、あくまで噂なんだけどねと前置きをする。
「学校でひどいいじめを受けて、脳に障害ができたんだって」
唯先輩の寂しそうな笑顔が、私を初めて見たときの怯えたような表情が、自然と思い出されていた。
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